第5話 静かな湖畔の銀嶺草

 エステラ湖は面積16k㎡ほどの淡水の湖だ。

ネピアの街から30キロ弱で、魔物も滅多に現れない立地とあって貴族をはじめとする富裕層が馬で遠乗りによく訪れる景勝地だ。

澄み切った水に泳ぐマスと湖畔に咲く銀嶺草が名高い。


「おお、いいところだな」

「うん。久しぶりに来たけど水が綺麗ね」

赤や黄色に色づいた紅葉が波のない湖面に映りとても美しい。

錦秋きんしゅうというやつだな。

「ところで銀嶺草ってどんな形をしてるんだい?」

「なんていうか……シュッとした茎にこれくらいの花がボンボンボンとついてるのよ」

「……」

「なによ?」

「パティー……文学的才能がゼロだな」

「バカにしてるの?! 防御的才能も攻撃的才能もゼロのくせに! 殴るわよ!」

「だからやめろって! 死んでしまうだろがっ!」

 結局、銀嶺草の花の形はわからなかった。

初夏の花なので既に散ってしまっていたのだ。

おかげで見つけにくいことこの上ない。

鑑定スキルをパッシブ状態にしてようやく見つけることができた。

1本見つけるのに30分もかかってしまったよ。

素材としては花である必要はないので、葉と茎を採取した。

「なかなか見つからないもんだな」

「そうね。あんまり見かけないわね。でも銀嶺草を取る人なんて普通はいないわよ。何かの素材になるなんて聞いたことないもの」

 銀嶺草を使う身体強化ポーションのレシピは知られていないということか。

「ギルドの依頼でも銀嶺草の採取なんて見たことないわ」

「だったら秘密にしておいてくれよ。数が少ないうえに乱獲なんかされたらたまらないからな」

 湖畔を歩くこと1時間。

俺たちの目の前に湖に注ぎ込む小川があらわれた。

水を汲んで一休みすることにしよう。

生活魔法で枯れ枝に火をつけてお湯を沸かす。

銀嶺草を探しながら摘んだミントやレモンバームなどでハーブティーをれた。

「ホントにマメよね。ハーブなんていつ摘んだの?」

「なかなか銀嶺草が見つからないからさ。もののついでだよ」

「まったく嫁にしたくなるわ」

「……」

「なによ?」

「それもいいかなって」

「ばかぁ。冗談に決まってるでしょ!」

 褐色の肌を赤く染めてパティーが怒っている。

そんなにカップを振り回すなって。

当たったら死んでしまうんだから。

「で、1本とはいえ銀嶺草は見つかったわけじゃない。ポーションは作れるの?」

「ああ。これで5回分は作れる」

「じゃあさ、試しに作ってみたら」

「そうだな。作ってみるから少し休んでいてくれ。お茶のお代わりはここに置いておく。お茶うけに焼き栗もできているから」

「うん。……いつの間に作ってるのよ」


 パティーには待っていてもらい俺は錬成をはじめた。

少し緊張してきたぞ。

これの出来如何できいかんでは冒険を諦めなければならないのだ。

取ったばかりの銀嶺草を素材錬成で乾燥させ粉末にする。

それをほかの材料と混ぜ合わせて薬物錬成すれば出来上がりだ。

あらかじめ作成しておいたガラスの小瓶に出来上がったポーションをいれた。

怖いので飲む前に鑑定してみよう。


鑑定

【名称】身体強化ポーション(10倍)

【種類】補助ポーション

【効果】各パラメーター×10倍

【属性】無し

【備考】2時間で効果は切れる。最高値1000.それ以上の増加はない。副作用:特になし


成功のようだ。

副作用がないのはかなりうれしい。

早速飲んでみるか。

味はすっとする液体胃薬によく似ている。

忘新年会の時にお世話になった薬の味だ。


ステータスオープン。


【名前】 宮田一平

【年齢】 27歳

【職業】 無職

【Lv】 1

【状態】 身体強化×10 (残り時間 01:59:47)

【HP】 80/80

【MP】 999862/999999

【攻撃力】30(+128) 括弧内は武器の能力

【防御力】50(+7) 括弧内は防具の能力

【体力】 40

【知力】 1480

【素早さ】50(-1)

【魔法】 生活魔法 Lv.max、回復魔法Lv.max

【スキル】料理 Lv.max  素材錬成(マテリアル) Lv.max  薬物錬成 Lv.max

鍛冶錬成 Lv.max  鑑定Lv.max  ゴーレム作成Lv.max  道具作成Lv.max

射撃Lv.0(命中補正+0%)

【次回レベル必要経験値】 0/100000 


 よし! 成功だ。

ようやくこれでスタートラインに立てる。


「どう、イッペイ?」

俺は体を動かしてみる。

力が漲っている。

自分が思い描くように身体が動く。

なんだこれ? 

すごく楽しいぞ。

「成功みたいだ」

「やったじゃない!」

パティーが体当たりをかますようにぶつかってきて、ぎゅっと抱きしめてきた。

鎧を着たままだからかなり痛い。

「く、苦しいよ」

「あはは、ごめん、ごめん。でもこれで冒険者登録できるわね」

「ああ。だけどもう少し銀嶺草を集める必要があるな」

「わかってるわよ。いきましょうっ!」

我がことのように喜んでくれるパティーにキュンときてしまった。

その笑顔は反則だよ。

でもね、抱きついてきたときの体当たりとホールドでダメージが入ってたよ。

【HP】78/80 

強化してなかったら瀕死だったな。

大丈夫だったけどさ……。

鼻歌を歌いながら歩き出すパティーの後ろで、そっと回復魔法を自分にかけた。


 48輪の銀嶺草を集めることができた俺たちはネピアの街に向かって歩いている。

「何これ! 何これ! ナニコレーーーっ!! すごい! すごすぎるよ!!」

俺の目の前ではさっきからパティーが暴れている。

パティーがショートソードを片手にもってスッパスッパと枝を切る、幹を切る。

「斬撃波!!」

あ、今度は岩を切った。

でっかい岩塊が真っ二つだ。

さっき頼まれて身体強化ポーション(10倍)を飲ませてからずっとこの調子だ。

どうやらしばらく続きそうだ。

「私TUEEEEEEEE!!」

「わかった、わかった。ほら危ないだろ。気をつけてよ! 岩の破片が飛んでくるっ!! 死んじゃうだろっ!!!」


鑑定


【名前】 パティー・チェリコーク

【年齢】 22歳

【職業】 戦士

【Lv】 13

【状態】 身体強化×10 (残り時間 01:27:18)

【HP】 1000/1000

【MP】 260/420

【攻撃力】1000(+127) 括弧内は武器の能力

【防御力】1000(+39) 括弧内は防具の能力

【体力】 1000

【知力】 970

【素早さ】860

【スキル】身体強化Lv.3 スラッシュLv.4  野営Lv.2 斬撃波Lv.1


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