第61話 オーラをまとった男
俺たちは十日かけてネピアに戻ってきた。
宮田一平はコンブウォール鉱山で死んだことになっているそうだ。
なぜだか知らないがそういうことになっているらしい。
あの代官が着任早々の脱走事件は外聞が悪いから、もみ消したのかな?
「どうしてかな?」とパティーに聞いたらパティーがとんでもなく不機嫌になった。
代官と何かあったのか?
その後正座させられて代官に何をされたか洗いざらい白状させられた。
もちろん貞操帯のことは内緒だ。
あれだけは墓場まで持っていく。
何はともあれ、死んだことになっているのはありがたい。
パティーや仲間たちにお願いして、俺が生きているのはチェリコーク子爵にも内緒にしておいてもらった。
国王にバイアッポイを収めるのもこれでおしまいだ。
うまい具合に関係が切れてちょうどよかった。
収入は減るけどささいなことだ。
貴族との繋がりなんてまっぴらだと思う。
以前の借家はパティーとの話し合いで、彼女のパーティー『エンジェルウィング』の本拠地として使うことが決まった。
パティーの親友のジェニーさんも気に入っていたからそこは問題なかった。
チェイサーのことは今思い出しても悲しいが、もうあいつはどこにもいない。
俺は俺で生きていかなければならないと思っている。
俺はジャンの紹介で下町のアパートに移り住んだ。
迷宮にも近いし利便性も悪くない。
なかなかいいところだと思う。
だが…。
「おっさん、腹減った!」
まさかジャンの隣の部屋だとは思わなかった。
最近こいつは調子に乗って朝飯をたかりにくる。
そしてもう一人。
「ニンジン…きらい…」
「ボニーさん、わがまま言わないの!」
上の階に引っ越してきたボニーさんがしょっちゅう遊びに来る。
「うが!」
ゴブも元気だ。
コイツは最近、料理スキルLv.1がついた。
お前はどこに向かっているんだ?
ゴブは自慢げに、焼き色も美しい、形もヴィヴィットなオムレツをボニーさんに提供している。
それにしても久しぶりにゴブに会えた時は涙が止まらなかったよ。
とはいえ休眠状態で時間の止まっていたゴブにしてみれば、感覚的に1時間後の再会だ。
かなりそっけなかった。
俺の元には現在3体のゴーレムしかいない。
ゴブとハチドリのバリ、そしてヒカル君だけだ。
傭兵団との戦闘の際、ボーラとバンペロ、そしてジョージ君は戦いに散った。
俺と同じで防御力が極端に低いゴーレムだった。
ありがとうゴーレムたち。
俺は君たちを忘れない。
「今日はどうする…? 潜る…?」
朝食を囲みながらボニーさんが聞いてくる。
久しぶりの探索だ。
心が躍る。
「いいですね。ブランクが長いから、軽めに第一階層2区くらいまで行ってみますか?」
おれがウキウキしながら答えていると、ジャンにとんでもないことを指摘されてしまった。
「そういえばさ、おっさん死んだことになってるだろ? ギルドカードどうすんだよ?」
言われてはじめて気が付いた。
俺は収監された時点でカードを失効している。
これではゲート内に入れないではないか!
再発行はできない。
だって死んだことになってるもん。
取り直すしかないか。
「ギルド行ってくる…」
「リーダーがポーターでもいいけどさ、冒険者ですらないって締まらなさすぎだろ!」
ジャンの癖に生意気だ!
だが正論過ぎて言い返せないところが辛い。
「心はいつだって冒険者なんだよ!」
「いいから早くとってきて…」
怖いですボニーさん。
こうして俺はギルドへ登録に、不死鳥の団は俺抜きで迷宮に潜ることになりました。
冒険者ギルドの事務局にくるなんて、初めて登録に来た時以来だ。
前に俺を登録してくれた職員がどんな顔だったかは忘れた。
多分向こうも忘れているとは思う。
だけど、万が一思い出されたら厄介だ。
確か男の職員だったから、今回は女の職員の受付ブースに行くことにしよう。
相変わらずここは人が少ない。
一度冒険者になってしまえば、依頼内容の確認や買取などはすべてゲートのところで行われるので、ここに来る奴らは依頼を発注する人か登録希望者くらいだ。
ふん、俺とは格が違うようだな。
俺は使い込まれた装備を身に着け、ベテランオーラを放ちながら悠然と受付へ歩いた。
「本日はどういったご用件でしょう?」
「…冒険者登録をお願いします」
「新人の方ですね?」
「…はい」
ベテランオーラがしょんぼりです。
でも仕方ないよね。
俺、死んだことになってるから。
以前はイッペイ・ミヤタの名前で登録したが、今回はただのイッペイで登録した。
なんの問題もなく登録が終わったぞ。
今日から俺は第10位階イッペイとして新たにやり直すんだ。
初心者講習会を勧められたが丁寧にお断りしたぞ。
今更だもんね。
俺が登録作業をしている間に『不死鳥の団』は迷宮へ行ってしまった。
まだ9時なんだから待っててくれればいいのに。
もっとも、みんな生活が懸かってるからね。
その辺はシビアにならざるを得ないだろう。
俺も収入が大幅ダウンだから、今迄みたいに趣味で冒険者やってる感じじゃまずいよな。
これからはもっと気合を入れていかなければ。
自由であるというのは死と隣り合わせだよなぁ。
頼るものが少ないから、頼られることも少ない。
こいつが自由ということかな?
よし!
今からでも迷宮ゲートへ行ってみよう。
ひょっとしたらポーター募集のパーティーが残っているかもしれない。
それにたまには迷宮以外の依頼にも目を通しておくのもいいだろう。
そう考えて俺はゴブと一緒に迷宮ゲートへと急いだ。
9時を少し過ぎているのでゲート広場の人はまばらだ。
たまに上がるポーター募集の声を聞きながら依頼表と掲示板を眺めた。
日帰りのポーター募集はなかなかない。その内俺は掲示板を眺めることに集中した。
●パーティーメンバー募集 第三階層をメインにやってます。盾役募集中です。『ステッペン・ウルフ』
なかなか頑張っているパーティーだ。
●腕に覚えのある者求む! 第五階層到達。 『黒槍隊』 回復者いつでも募集 高級優遇!
こいつ高給が高級になってる。きっと脳筋だな…。あまり入りたくない。無茶なことをやらされそうだ。
☆まだまだ初心者だけどお第一階層で「命大事に」でやってま~す! お友達絶賛大募集!
『ラビット☆ハート』
おともだちは間に合ってるからいいか…。
●当方剣士で、全職業募集中です! 俺たちと三階層を目指そうぜ! 『マキシマム・ソウル』
俺たちってお前一人だろ?! いや、わかるよ気持ちは。誰も来ない気がするけどね。
俺が楽しく掲示板を眺めていると一人の男が大きな声で人を集めだした。
「仕事にあぶれたポーター諸君、ちょっと俺の話を聴いてくれないか!」
募集以外で叫ぶ人間は珍しい。
興味を惹かれて俺もそいつの方をみた。
まだ若い男だ。
ジャンよりは年上だが俺ほどのダンディーさはない。
まあ二十歳そこそこの若造だ。
粗末な革の鎧をつけ、腰には長剣を佩はいている。
男から距離をとりながらも10人ほどの冒険者たちが彼を見ていた。
「どうだい諸君、我々で臨時パーティーを組んで、第一階層の浅い所で狩りをしてみないかい?」
なるほど、これは珍しい。
ネットゲームでは当たり前の臨時パーティーだが、この世界では初めて見た。
おそらくだが、命を預ける現場で臨時のパーティーは危険すぎるというのが冒険者たちの判断なのだろう。
連携だってうまくいかないだろうし、組んだ人間の為人ひととなりもわからない。
ただ、第一階層の1区までなら何とかなりそうな気もする。
その辺だったら、いざとなればゴブと二人で帰ってくることも今の俺なら可能だ。
ついつい悪い好奇心に負けて俺はその場に居残ってしまった。
他にも六人の冒険者が男の元へ残った。
「ありがとう諸君。臨時とはいえ俺たちは一つのパーティーだ。仲良くやろう。『マキシマム・ソウル』へようこそ!」
『マキシマム・ソウル』?
掲示板のあいつかよ!
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