第32話 告白
覆面をかぶり、怪盗 モリアーティー・ウーロンティーと名乗った俺にみな目が点になっている。
ここは気にせずに続けよう。
「女性に手荒なことをするのは苦手でしてね、おとなしく金と魔石を出していただけませんか? この男のようになりたくなければ」
俺は失禁しているユーライアにむけて顎をしゃくる。
しばらくポカンとしていたパティーたちもこの茶番の意味が分かったのだろう、大急ぎで財布を取り出した。
「これが私の全財産です」
俺は投げられた財布を受け取る。
「ふむ。素直で助かりますな。ああ、庶民から金をとろうとは思いません。私が狙うのは貴族だけです」
ユーライアが俺を睨みつけてくるが身体はうまく動けないようだ。
「おの…れ…ただで…」
「バスッ!」
情け容赦なくもう一発スタン弾をユーライアに叩き込む。
ユーライアは白目をむいて気絶した。
パティーの体を狙うなんて許せるわけがない。
こいつは勃起障害を起こす薬を注射してやる。
俺の恨みは恐ろしいのだ。
後で早速素材集めだ。
「おとなしくしていろ。ん、これは貴様には過ぎた剣だな。私がもらってやろう」
俺は自分が作った劣化聖剣を掴んだ。
バカ貴族に刃物は危険すぎるのだ。
そろそろみんなショックから立ち直る頃か。
「ふむ。もう少し諸君らと会話を楽しみたいところだが迷宮の鬼が私を呼んでいる。再びこの闇に我が身をとかす時間が来たようだ。少年老い易く学成り難し、ボーイズビーアンビシャス! 再び会おう! フハハハハハハハハハハハハハハハ…………」
俺は去り際、端にいたボニーさんに「追いかけてきて」と囁いた。
「マテ…怪盗ウーロンティー…」
わお!
すごい棒読み。
ボニーさんに釣られて他のメンバーも走り出す。
「待ちなさい!」
お、パティーは意外と演技派だ。
「逮捕するぅ!」
ジャン、お前は顎の割れた警部さんか。
しばらく移動し十分な距離をとって小部屋に入った俺たちは、笑いながら一息入れていた。
「おっさん笑わせないでくれよ。まったく何が迷宮の鬼が呼んでいるだよ」
「まあまあ、あの辺あたりの件くだりは適当だから。これであいつもパティーとは無関係な怪盗に襲われたと勘違いするだろう」
「イッペイさんが後方に控えていてよかったですよ」
「ふ…よくやった…」
「ありがとうイッペイ。正直言うと少し怖かったわ。あいつはラムネス伯爵家の長男でユーライアっていう嫌な奴なのよ」
「求婚されたの?」
「ええ。碌な噂を聞かないし、即座に断ったわ。でも、あそこまでの下衆とは知らなかった」
「どうせ権力を笠に着て、悪逆非道を繰り返してるタイプだよ。後でお仕置きするから手伝ってくれ」
「イッペイ、相手は貴族よ。下手に手を出せばあなたの命が危ないわ」
「闇討ちとか、暗殺とかは考えていないよ。…ボニーさんはがっかりした顔しない! これ以上不幸な女性を出さないために奴のナニを使えなくします」
「それって…」
パティーとメグが顔を真っ赤にしながら興味津々で聞いてくる。
「えー、なんだ…勃起障害をひきおこす薬を奴に気づかれないように飲ませます。大事なところが使えなかったら被害にあう人は減るだろ」
妙齢の女性たちの前で改めて言うと恥ずかしいな。
「刈り取った方が早い…」
「ボニーさん、直接手を下すのはだめですから」
「刈り取るって、ボニーさん眼が怖いよ」
ジャン、気持ちはわかるけど両手で股間を隠すのやめなさい。
あ、俺も無意識のうちに隠してた。
ゴブ…お前にはついてないだろ?
「でも、どうやってその薬を飲ませるんですか?」
メグの質問ももっともだ。
俺としては料理に混ぜることを考えていた。
ハチドリを改造すればうまく鍋の中などに薬をいれられると思う。
「イッペイ…吹き矢の先に薬を塗って使えるか…?」
内服薬として使うつもりでいたが、皮下注射薬にも変更できる。
確かにその方が楽かもしれない。
隠密潜行の得意なボニーさんなら容易に吹き矢を打ち込めるだろう。
「ええ、薬品の使い方は変えられます」
「なら、私が奴を狩る…。あの手の奴は大嫌いだが、あの手の奴を狩るのは大好きだ…」
普段より饒舌すぎて怖いです。
怯える俺の顔をみてボニーさんは他には聞こえないように呟く。
「イッペイのことは狩らない…好きだから…」
不思議な感じで告白されてしまった。
そして、この人の声はとても優しくて…困ってしまう。
すぐに俺は調薬にかかり、ボニーさんは奴らの動きをトレースするために出かけて行った。
やがて薬が出来上がり、無事にユーライア・ラムネスに打ち込むことが出来た。
奴が絶望する顔が見られないことが残念だがまあいい。
俺の復讐はなされた。
早いもので明日はもう地上に戻る日だ。
次はもう少し長く潜っていてもいいかもしれない。
少しずつ距離と時間を伸ばしてこの次は第二階層のもっと奥まで進んでみよう。
皆は眠っている。
俺は一人起きて見張りだ。
寒いのでたき火を絶やさないように気をつける。
むっくりとパティーが起き上がり、俺の横に音もなく座った。
「眠れないの?」
「ううん。話がしたかったの」
パティーが少しだけ俺に体を預けてくる。ほんの少しだけ。
「昼間はありがとね。助かったわ」
「うん」
「どうして男ってこう…性欲が強いのかしら」
パティーは怒ったように言う。
「性欲は生物の本能だからいかんともしがたいなぁ。ユーライアの場合は性欲云々じゃなくて人としての在り方の問題だ。どんなにスケベな気持ちになっても、どう行動するかは本人の心次第だもん」
「じゃあイッペイも私に欲情するの?」
「…ストレートすぎる質問だな。正直に言えば答えはイエスだ。だけどレイプしようとは思わない。普通はそうだろ。そうじゃなかったらこの世界は性犯罪者だらけだ」
「そっか…」
「それに、襲ったら確実に俺が殺されるだろっ!」
「アハハ、それはそうね。でも私がもっと弱くて、イッペイがずっと強くてもイッペイは襲わない。それはわかってる…」
パティーの胸は大きい。
俺はしょっちゅう盗み見てる。
その視線はバレバレだろう。
だけど信用はしてくれているようだ。
「パティー…、俺は27歳、もうすぐ28歳になる。衝動的に行動するほど若くはないし、情熱をあっさり捨てられるほど老いてもいないんだ。だから少しだけ待っていてほしい。俺が君に俺の思いを打ち明けられる状態を何とか作る。その日まで…」
「…うん」
貴族の女と恋に落ちた男は強制労働か死が待っている。
恋愛関係になれば強制労働、その結果肉体関係になれば死罪だ。
女も修道院で尼になるしかない。
それがこの国の法律だ。
それだけではなく、貴族の場合は家名に傷がつく。
メンツを重んじる貴族にとって許されることではなかった。
パティーは両親を大切にしている。
自分の気持と家族の間で苦しんでいるはずだ。
つまり俺たちが幸福になる方法は一つだ。
俺が貴族になるしかない。
「パティー、俺はこの国で貴族になるよ。手伝ってくるかい?」
「うん。嬉しいよ…」
パティーは俺が貴族になる意味をすぐに分かってくれたみたいだ。
そして俺は今一つの覚悟を決めた。
とりあえずは強制労働に対する覚悟だ。
思っていたより俺は若くて衝動的だったらしい。
「パティー、好きだ」
「うん、私も大好き」
俺はパティーを抱き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。
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