第134話 ジローさん発進
バスマに戻った俺たちは小型飛空船型ゴーレム・ジローさん1号の素材集めに奔走した。
小型なのでそれほど材料は多くない。
全長12.8メートル 全幅3.8メートル。
見た目は底が平らな輸送船のようだ。
だが一般の船と違って前部に船室とコックピットがあって、後部が荷台になっている。
船底にはヘリコプターの足の部分と同じスキッドがつく。
Cランク魔石で浮遊装置を作り、Eランク魔石で三基のプロペラエンジンを搭載した。
原理としては飛行機やヘリコプターというよりも飛行船に近い。
飛行船がガスを使って浮かぶように、Cランク魔石の浮遊装置で浮かぶ仕組みだ。
このような構造にしておけば浮遊装置だけを取り外して第八階層へ運ぶことも出来ると考えたからだ。
最高飛行速度は時速135キロ。
エネルギー供給はMPもしくは魔石での供給になる。
武器はドエム2機銃を船底に装備している。
機銃を動かすのはジローさん自身だ。
荷台には船の後部ハッチから車両を二台まで搭載できる。
残念ながらT-MUTTを一台放棄しなければならない。
そうはいってもメグとクロがいない今、車両は2台でも充分事足りてはいる。
使わない車両はジローさんの素材にしてしまった。
作成は街の外で行った。
いきなり飛行船をとばしても住人がびっくりしてしまうだろう。
およそ半日をかけて完成する。
早速試験飛行だ。
試験飛行は無人でやることにした。
ジローさんは半自立型のゴーレムなので無人飛行だってできるのだ。
「ジローさん、ゆっくり上昇してみてくれ」
俺の命令を受けてジローさんの機体が持ち上がる。
30センチ程浮き上がったところで状態をキープさせてみたが、うまくいっている。
その場でホバリングを続けており、状態はほとんどぶれていない。
「それじゃあ、次は高度5メートルまで上がってみよう」
このように上昇実験を繰り返し、最終的に高度2000メートルまで上がった。
ひとつ気になったのはこの砂漠が亜空間にあるということだ。
周囲は見えない壁に囲まれている。
では空の上はどうなっているのだろう。
観測ロケットを飛ばしてみた。
ロケットは高度4500メートルまで上がり、見えない壁に追突した。
やはり天井部にも壁があった。
それでも飛空船は高度2000メートルくらいまでしか上がらないので問題はないだろう。
無人飛行実験に続き、操縦の練習もする。
ジャンが一番張り切っていたのは言うまでもない。
ジローさんの室内には二脚ずつゆったりとしたシートが4列並んでいる。
8人乗りだが、詰め込めばもう少し乗れる。
今回は俺とジャンが一番前の操縦席に座った。
「浮遊装置機動。垂直離陸開始」
「了解。離陸を開始する」
ジャンがレバーをゆっくり手前に引くと、機体が垂直に浮き上がっていく。
各種制御はジローさんが手伝ってくれるとはいえジャンの操縦はうまい。
「推進開始。速度を時速40キロに固定。北の風、風速4.船首を北寄りに向けろ」
低速かつ浮遊状態なので風の影響をもろに受けてしまう。
最初こそ戸惑っていたが、すぐにジャンは風の感覚を掴んで安定した飛行を見せる。
やはり地上を行くよりはずっと安全で速い。
「イッペイさん、このモニターは何なのですか?」
マリアが見ていたのはレーダーのモニターだ。
俺はレーダーの簡単な仕組みを説明した。
「基本的に敵が来たらジローさんが知らせてくれるから、それほど注意はしなくていいよ。一応ワイバーンとか気をつけておいてね」
空の上の魔物は地上に比べれば少ないが、強力な種類が多い。
機動力もジローさんよりずっと上だ。
敵を発見した場合は地上に降りて戦うのがセオリーとなるだろう。
それでも一応の備えとして、船室の屋上にもドエム2機銃が配置されていて、船室から梯子を伝って登れる。
敵を発見した事態を想定して戦闘訓練も行った。
「訓練。北北西よりワイバーン飛来。数4!」
「了解。これより緊急着陸に入る」
ジャンが着陸場所を探しながら高度を落としはじめると、すぐさまマリアが機銃の所へ登っていく。
MPが多いマリアが機銃を扱うのに一番向いているのだ。
ゴブはアンチマテリアルライフルを装備して船室を出て船の最後尾へと飛び出す。
ボニーさんもタッ君に飛び乗り機銃の台座に座った。
俺は船首へでて最悪の事態に備える。
いざとなったらマモル君Ⅱでフルパワーのマジックバリアを張るのだ。
でもこれは最後の手段だ。
マジックバリアを下方向に張ると浮遊装置の邪魔をするし、どの場所に張っても船体がバランスを崩すのでなるべくやりたくないのだ。
「着陸30秒前。全員衝撃に備えろ――15秒前。10,9,8……」
ジャンの操縦センスはずば抜けている。
緊急着陸にも関わらずあまり衝撃はなかった。
ジローさんのサポートがあるとはいえ、操縦初日でこれだけの腕を見せつけるとは大したものだ。
着陸と同時に後部ハッチを開けてタッ君が出動した。
俺とジャンも打ち合わせ通りT-MUTTで出動する。
運転はジャンで機銃は俺が担当する。
マリアとゴブはそのままジローさんで待機し3ポイントから敵を迎撃する形をとって訓練は終了した。
「概ねこんなところでいいんじゃないかな? どうだった?」
「船上での射撃訓練がしたいです。移動中だと感覚が違う気がします」
それはマリアの言う通りだろうな。
お皿を飛ばして標的にするクレー射撃のような訓練装置を作ってみようかな。
「俺は一度最高速度を出しておきたいな。高速状態での機体維持や各種制御を押さえておきたい」
それに加えて高高度での訓練も必要だろう。
それもやっておこう。
「他には?」
「お腹……すいた」
ボニーさんが場をしめたので、俺たちは宿で待つナーデレさんたちの所へ戻って食事をとることにした。
翌日、ジローさんを隠しておいた岩場までサナ達を連れてきた。
今日はジローさんに乗って一気にワルザドまで行く予定だ。
「大きい! これに乗るの?」
砂漠の内陸部に住んでいたサナは小型飛行船のジローさんでも大きな船に見えるようだ。
サナが見たことのある舟はオアシスの池に浮かぶボートくらいだから仕方がない。
「そうだよ。これでお空を飛んでいくんだ!」
「うあわ!」
サナははしゃいでいたが、その後ろでナーデレさんが固まっている。
「どうしたの、ナーデレさん?」
「そ、そらを……」
まずい!
これは迂闊うかつだった。
ナーデレさんは飛ぶことに恐れおののいている。
「大丈夫ですよ。そんなに高くは飛ばしませんし、スピードも車両よりちょっと速いくらいだけで……」
ナーデレさんは涙ぐんで、その場を動こうとしない。
「泣かないで下さいよ。これくらいしか上がりませんから」
俺は地上から1メートル程の高さを手で指し示す。
「……本当ですか?」
そんな目をして見つめられたら困ってしまう。
でもジローさんをホバークラフトみたいに使う予定はなかったんだよな
「ジャン、ジローさんは低高度の制御をまだ覚えていないからジャンが運転してくれ」
「はあ?」
「砂漠や砂丘の形状に合わせて高度1メートルをキープして進むんだ」
「軽く無茶なことを言ってくれるなあ!」
俺は小声でジャンの耳元に囁く。
「その内ナーデレさんも慣れるだろうから、少しずつ高度を上げていこう」
「わかったよ……まったく女に弱いな、おっさんは」
いやいやをするナーデレさんを宥なだめて、なんとかシローさんに乗せた。再び騒ぎ出す前にさっさと発進してしまおう。
「ジロー君、急速起動。微速前進!」
「了解。高度1メートルで微速前進を開始する」
なんだかんだでジャンもノリノリだ。
こうして、ジローさんの初運用は低高度での移動実験を兼ねることとなった。
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