第93話 審美眼
俺たちの秘密基地は、重い鉄の扉を開くとまずエントランスがある。
幅は4メートル強、奥行きは5メートル。
ギリギリタッ君とテイラーの2台を駐車できるスペースだ。
テイラーを先に停めてしまえば、ゴーレムのタッ君は自動で入ってくれるから楽だ。
エントランスの正面はリビングルームの扉があり、左奥には廊下が続く。
廊下の右側の扉は奥が女子部屋、手前が男子部屋だ。
左側は奥が風呂場で手前がトイレだ。
廊下の突き当りには簡易キッチンがある。
風呂もキッチンも水は出ないが排水システムはある。
水はこちらで用意してやらなければならない。
5区に飲用可能な噴水があるので皆そこへ行くそうだ。
それぞれの部屋は45㎡とかなり広い。
探索には少し不便だが、車両を2台止められる広さが有って助かった。
回廊に停めて置いたら魔物だけでなく通りがかりの冒険者にまでいたずらされそうだ。
その晩はバゲットのサンドイッチにした。
パンは偶然迷宮ゲートに来たセシリーさんがくれた。
ストーカーじゃないことを強調したくて偶然を装っていたが、大量のパンを持って迷宮ゲートにはこないでしょう、普通。
バゲットにルッコラやチーズや生ハムやスモークサーモンや卵やスライスオニオンやオリーブやゆでたジャガイモやと好きなものを山盛りに挟んだサンドイッチだ。
まだ椅子もテーブルもないから石畳の床に敷物をしいて食べた。
そしてお待ちかねのお風呂だ。
魔石をエネルギーにする魔導加熱器がついているので俺はひたすら生活魔法で水を作っていく。
この風呂は深さはないが面積は広い。
全部で800リットル作ることになった。
16分くらいかかった。
俺は毎分50リットルくらいの水を作れるんだね。
自分の能力を再確認したよ。
風呂は広いので男女に分かれて入ることにした。
女の人たちに先に入ってもらった。
湯上りの女性は色っぽいね。
ほんのり桜色のボニーさんに声をかける。
「湯加減はいかがでしたか?」
ボニーさん、なんでそんなに怖い眼をしているの?
「イッペイ……胸は大きければいいというものではない……そうだろ?」
「イェス、マム!」
ボニーさんの殺気に、思わず気を付けの姿勢で叫んでしまった。
マリアと比べて
「本気で……そう思ってる?」
「当然であります!」
ボニーさんが俺をジト目で睨む。
「どうせみんな……おっきい方が好きなんだ」
「ボニー様、胸はバリエーションです。大きければいいというものでは断じてありません」
ゴブよナイスフォローだ。
「本当に……そう?」
「ええ。私めに言わせれば、巨乳のみを追求するなど大艦巨砲主義のオコチャマ的感覚と言わざるを得ませんな。そもそも色香というのはトータルではかるもの……」
「ゴブ……続けなさい」
おお! ボニーさんの機嫌がよくなっている。
「はい。僭越ながら、例えばボニー様の一番の魅力はその小股から切れあがるラインと腹筋の織り成す妙。その究極美ともいえるバランスに巨乳? はっ、あり得ませんな! 芸術に対する冒涜というものでございます。ボニー様は既に完成された美を持つお方、これ以上何を望まれますか」
お前、見てきたように言うよな。
それとも本当に見たの?
「すまないゴブ……少し取り乱した」
ボニーさんは機嫌を直して部屋へ行ってしまった。
「ゴブ、お前……」
「マスター、私は私の審美眼にかなったものをただ言葉にしただけ。どんな女性にもエロスは宿る。そしてそれは美しい。それが私の至った真理です」
確かにお前は生まれた時からストライクゾーンが広かった。
人の美点を見つけるというのは尊い行為だ。
だが、なぜにこだわるところがエロなんだ。
やっぱり俺が作ったからなのだろうか?
おれ、そこまでこだわりはないはずなんだが。
クロのオーガについてはさらりとスルーする。
凄かった! とだけ言い添えておこう。
でもあえて一言だけ。
俺はホモにはなれない。
あんなもの……怖い!!
翌日、俺たちは二台の荷台を空にして第四階層6区の密林へ向かった。
目的は木材を得るためだ。
作りたいのはベッド、椅子、机、棚などだ。
素材錬成で次から次へと丸太を作り、板を作成して、それを裁断していく。
昨夜の内にネジとドライバーを作成しておいたので、帰ったら各人に組み立ててもらうことにしよう。
満載の運搬車で2往復して材料を部屋に運び込んだ。
ネジは大と小の二種類の規格に統一した。
ホームセンターで売られている家具の様に簡単に組み立てることができる。
ベッドやテーブル、椅子が次々と出来上がっていく。
今夜は文化的な食卓になりそうだ。
それぞれの部屋にロッカーも作った。
これはスチール製でゾンビナイトのカイトシールドを素材にしている。
ちゃんと洗浄して、マリアに聖別してもらってから作っているから汚くないよ。
「私物はなるべくロッカーにいれるようにな」
クロは嬉しそうに自分の釣竿をロッカーに入れている。
各種釣り道具の入った箱なんかも持ち込んでいた。
ジャンは着替えのシャツなどをハンガーにかけている。
意外とお洒落なんだな。
そのほかはナイフを数本持ってきたようだ。
俺は迷宮では寝る時もアサルトスーツを脱がないので、その下に着るシャツを2枚持ってきただけだ。
アサルトスーツは迷宮大蜘蛛の糸にミスリルを混ぜて作った生地で出来ている。
魔法耐性に優れ難燃素材で、物理防御にも優れる。
一番上に着るボディーアーマーは寝る時はさすがに外す。
アーマーも重いがマガジンやポーション、通信機器が入っているのでこれを付けたままでは横になることは難しい。
壁にはライフルをかける銃架もつけた。
不測の事態にもばっちりだ。
それだけではない。各イスや、テーブルの下にもハンドガンをとめて置ける場所を作った。
これが役に立つかどうかはわからないが、何が起こるかわからないのが迷宮だ。
準備はしておいて損はないだろう。
迷宮4日目。
部屋の調度はある程度そろったので、今日はご近所を散策することにする。
散策と言っても住宅街ではないのでフル装備で臨む。
3区はサイクロプスが多い。
スパイ君がいる俺たちは、先にサイクロプスを発見できるので討伐はたやすい。
迷宮の曲がり角からアサルトライフルでサイクロプスの弱点である眼を狙い撃ちするのだ。
眼は直径35センチはあるので外すことはそうない。
相手も動いているのでたまに外すこともあるが、皆で対処すればそれほどの危険はなかった。
俺たちにとってサイクロプスは相性のいい敵と言えた。
25体のサイクロプスを屠り、3個のFランク魔石を入手した俺たちは迷宮を更に進んだ。
そして、ついに奴に出合う。
『暁の刃』のクラークが言っていた噂の巨大種だ。
改めて見るとかなり大きい。
頭は15メートルはある天井につきそうだ。
ここはゴブゴさんに登場いただこう。
対物ライフルを構えてゴブが狙いを定める。
俺とクロがその周囲を警戒した。
巨大サイクロプスはまだこちらに気づいていない。
ゴブの指が引き金にかかったその時、サイクロプスがこちらを見た。
とてつもない衝撃音が響き渡る。
サイクロプスは後ろに吹っ飛んだところを見ると倒したようだ。
俺は前に進もうとしたが、ボニーさんがそれを止めた。
むくりと起きるサイクロプスが一つ目を細めてニィと凶悪な笑顔を見せた。
ゴブの放った弾丸を手にした鉄柱で受け止めたというのか?
鉄柱の太さは直径50センチくらい。さすがにあれは貫けない。
ゴブの2射目が発射されたが、やはり鉄柱で受け止められた。
「全員退避!!」
ボニーさんの指示が飛ぶ。
俺はクロとゴブが乗り込むのを確認してテイラーのギアをバックにいれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます