第92話 作ろう、僕らの秘密基地!

 今回の探索の準備は皆どことなくウキウキしている。

俺も例外ではない。

なぜなら第五層にできる俺たちの新しい基地へ搬入する物資を選別しているからだ。

「個人の持ち物は10キロまでだからな。超えないように気を付けてくれよ。それから腐りやすいものとかもダメだからな」

 聞くところに寄れば、五層の小部屋には家具調度といったものは一切備え付けられておらず、ベッドや机、椅子などは自分たちで用意しなければならないそうだ。

地上から第五層まで家具を運ぶのは大変なので、4層の密林エリアで木を伐採・加工し、パーツごとの裁断まで済ませてから運び、基地内で組み立てを行う予定だ。

 今回タッ君に積み込むのは食料と布類、個人用の荷物、錬成用の素材だ。

だが荷物が一杯あるのでタッ君だけでは運搬車が足りない。

そこでパティーに作ってやった耕運機が付いたリアカー(テイラー)を作る。

これはゴーレムではなく二輪駆動機でリアカーを引っ張るだけの代物なのでGランクの魔石だけで事足りる。

その代わり足回りと馬力を強力にして迷宮での使用に耐えられるようにした。

テイラーを扱うのはもちろんポーターの俺だ。

タッ君は運転せずに自動で動いてもらう。

『不死鳥の団』は二台の運搬車に分乗し、迷宮へ潜った。

先導はタッ君に乗ったボニーさん、ジャン、メグ、マリア。

後続がテイラーに乗った俺、ゴブ、クロだ。

荷物のほとんどはテイラーの方へ載せた。

タッ君の荷台も前より空いているので前衛の窮屈も少しは緩和されるだろう。

今回は試験的にタッ君の荷台にメグのミニミニ軽機関銃を取り付けられる台座を置いた。

これで弾も200発装填が可能だ。

射撃手はMP量が豊富なマリアにスイッチしてみた。

『不死鳥の団』はまだまだ発展途中なのでいろいろな形を試してみないとね。


 今日もタッ君とテイラーをとばして初日の内に第三階層へ到達した。

今は2区の草原地帯だ。

先行するスパイ君がこの道の先で冒険者パーティーが休息しているという情報を送ってきた。

車両の速度を落として慎重に進む。

 俺たちが近づくと休んでいたパーティーの男が手を振って近づいてきた。

精悍そうな顔つきをした20代後半らしき冒険者だ。

悪人面ではないが、前回この階層では迷賊に襲われている。

気は抜けない。

だが男は自分のギルドカードを示し、話ながら近づいてきた。

ギルドカードは赤くない。

「俺は『暁の刃』のリーダー、クラークだ。いきなりこんなことを頼んで申し訳ないがアンタらの荷台に負傷者を乗せてくれないか? この先の3区の小部屋までお願いしたい。頼む!」

クラークは深々と頭を下げた。

1,2区の草原エリアには安全を確保できる小部屋がない。

歩けない怪我人がいれば大変だろう。

「『不死鳥の団』のイッペイだ。何があった?」

「ビシャスウルフの奇襲をくらってな。仲間が脚をやられた」

見ると左脚に包帯を巻きつけた男がいる。

包帯には血がにじんでおり負傷は本当らしい。

傷だらけの顔色が悪く、多量の汗をかいている。

かなり重症のようだ。

「回復ポーションの予備もあるがどうする? けっこう効くぞ」

実際は、ネピアでこれほどのポーションは手に入らない。

一般のポーションはHPを50回復すればいいくらいの品質だが、俺のポーションは500回復する。

「いくらだ?」

俺は五千リムと答えた。

ネピアで売られているポーションの相場だ。

迷宮の中では1.5倍が相場だがアコギな商売をすることもないだろう。

本当は魔法で直してやってもいいが前述した通り法に引っかかる。

金が無い様ならただでポーションを譲ってもいい。

だがクラークは嬉しそうに笑って銀貨を5枚取り出した。

「助かったぜ。実を言うとポーションも全部使っちまったんだ」

ポーションをかけると負傷者の傷はすぐに塞がった。

「すげえな! なあ、もし予備があるなら…」

俺はポシェットから3本出してやる。

「ありがてえ! 一万五千だな。ほい。しかしこれ、どこで買ったか教えてくれないか?」

「俺の故郷の薬局だよ。ネピアじゃ買えない」

俺の平たい顔をみてクラークは納得する。

「貴重なものを悪いな。だがこれであいつも戦線を離脱しないですんだ。俺たちももう少し狩りが続けられるぜ」

「どこまで行くんだ?」

「五層までだ」

「クラークも部屋持ちか」

『部屋持ち』は小部屋を占有しているパーティーのスラングだ。上級の意味で使われる。

「イッペイも同じようだな」

「俺たちはこれから初めて自分の部屋に行くルーキーさ。よろしく頼む」

「はん、すぐに第四階層すらも制覇の予定だけどな!」

ウチのウッキーがすぐに大口をたたく。ジャン君は黙っていなさい。

「そうか、ところで5層のサイクロプスの噂は聞いているか?」

サイクロプスは一つ目の巨人だ。

身の丈は6メートルを越える大型の魔物で鉄柱を武器にしている。

重さがトンを越える物質を振り回してくるので危険なことこの上ない。

第五層の天井は他と比べれば低いが15メートルはあるのでサイクロプスでも充分動き回れる。

第五層の中では強力な魔物として周知されている。

「五層のサイクロプスはそれほどには珍しくないだろう?」

「ああ。だが新たにとんでもない個体が現れたんだ。そいつの身長は12メートルあるそうだ」

ベテラン冒険者のクラークでさえ、12メートルと言う時に恐怖が顔に浮かんだ。

「普通の倍はあるじゃないか!」

「ああ、いろんなパーティーで被害が出ているらしい。今月だけでも10人以上が死んだそうだ」

頭にパティーの顔が浮かぶが大丈夫だ。

パティーが潜るのは明日からだ。

「イッペイ達も気を付けろよ。奴には魔法が効きにくいそうだ。身体も石の様に硬い。唯一の弱点になる眼も12メートルも上というわけだ」

強そうな相手だが俺たちとは相性がよさそうな気がするぞ。

「ありがとうクラーク、いい情報を貰ったよ」

「こちらこそポーションに感謝する」

俺たちは互いに礼をいって別れた。

「みんな、話は聞いていたな。銃器がある俺たちには相性のいい相手かもしれないぞ」

「そうね……多分……距離さえとれば」

俺たちの戦闘の基本はいつも一緒。

捕捉される前に捕捉して狙撃だ。

『不死鳥の団』はこのスタイルを崩さない。

それでもたまに奇襲を受ける。

魔物の擬態は凄いね。

空間転移はチートだね。

今日もマモル君が大活躍だ。

でも、そろそろマモル君もマークⅡにしないとダメかもしれない。

迷宮の奥へ行くほど魔物のレベルも上がり、防御力180のシールド魔法じゃ通用しなくなってきている。

Eランクの魔石を待つか、ハチドリトリオの枠を削ってマモル君の数を増やすか悩みどころだ。

「よ~め~ん!」の人たちみたいに指輪をいっぱいつけようかな。

4個付ければ自動で180HP×4枚のシールドが張れるからほぼ心配はない。

ゴブに狙撃されたら死ぬけどね。

意識して使う場合はマモル君一つにつき5枚のシールドが張れるから180HP×5枚×4個で3600のシールドが張れるからゴブの狙撃でも大丈夫だ。

でも、徹甲弾使われたらこれでも防げないか。ゴブゴすげーな!

 悩み抜いて俺はマモル君を4つ装備することにした。

チェキラ、チェキラ! Check it out (はい、ちゅぅもーく!)

♪俺の魔法盾シールド これで完璧ゴールド 今日の戦闘ゲームもこれで完封コールド レッツゲリロンLet’s get it on !(始めようぜ!)

ふっ、これで俺もパッパラパーだぜ!



 翌日の夕方には五層3区に到達した。

はやく新居を見たいのでだいぶ急いだ。

戦闘はほとんどしていない。

どうしても遠回りになる時だけ狙撃で排除した。

どうせ倒しても荷物が一杯で素材の回収は無理だった。


 『不死鳥の団は』自分たちの小部屋の前でしばし感慨に浸った。

扉は頑丈な鉄製で茶色く塗装されている。

いかにも重厚で他の階層より高級そうに見えた。

このエリアが城や神殿のような作りをしているかもしれない。

代表して俺がカギを開ける。

「あけるぞ」

手に力を籠め、重い鉄の扉を押した。

さあ、その姿を現せ、俺たちの秘密基地よ!

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