第164話 16人いる!

 ワルザドの東34キロ地点にある砂岩の塊をくり抜き、新たなドックを建造した。

今回はここにジローさんを隠して地上に戻る。

ジローさんだけではなく、多くのゴーレムたちを眠りにつかせなければならない。

FP部隊、砂漠専用索敵ゴーレムのススム君、1号を抜かした3体のドローン型ゴーレムのドロシーたちなどだ。

さすがに全部つれて帰還するわけにはいかなかった。

俺は一体一体を寝かしつけるように休眠状態にさせていく。

「ありがとう。再び探索に出るその日までゆっくり眠ってくれ」

最後まで積み込み作業を手伝ってくれたレッドに洗浄魔法をかけてから横にする。

これで待機組のゴーレムは全て眠りについた。



 ワルザドまでは2台の車両で戻る。

そしていざ転送魔法陣に乗ろうと祠に入ったら思わぬ人物に会った。

「おお、お前たちか」

そこにいたのはロットさんとネピアのトップパーティー「アバランチ」の面々だった。

『アバランチ』は、上は40代のロットさんから下は20代後半くらいまでの男たちで構成されたパーティーだ。

みな精悍な顔つきをしている。

「隊長のお知り合いですか?」

「おう、俺の可愛い教え子たちよ!」

ロットさんは機嫌よさそうに笑っている。

「隊長が指導教官とかマジで笑えるぜ!」

「何を言ってやがる! 見て見ろ、俺の教え方がいいからもう第七階層まで来やがったぞ」

ジャンがぐっと胸を逸らす。

「冗談じゃねえ、こちとらもう第八階層まで到達したぜ」

「なんだと!」

ニヤニヤと笑っていた『アバランチ』の顔が驚愕にそまる。

ジャンは胸からギルドカードを出して見せつけた。

カードの冒険者ランクは第3位階だ。

「マジかよ……」

それ以外に『アバランチ』のメンバーも声が出ない。

俺たちがバスマで自分たちを追い越していったのは知っていたが、まさか第八階層に到達したとは思っていなかったのだ。

『アバランチ』のメンバーは少し悔しそうだ。

だがロットさんだけは違った。

ジャンの肩に手をかけ、顔は満面の笑顔だった。

「やったなジャン。悔しいが……嬉しいぞ!」

「ロットさん……」

「イッペイ、おめでとう」

手が潰れるほどの握手をされた後、強引に肩を組まれた。

「それにしてもなんだこの荷車は? 自動で動くのか?」

ずっと第七階層にいた『アバランチ』はテーラーなどの車両がネピアで流行りつつあることを知らなかった。

俺は車両についてロットさんたちに説明をした。


 魔法陣にのり第六階層へと戻ってきた。

出発以来まる四カ月ぶりの「亡者の街」だ。

九月八日にネピアを出発して、今日は一月十二日。長いようで短い四カ月だったな。

気が付かない内に俺がこの世界へやってきて1年が過ぎてしまっていた。

 今日中に四区にある拠点の一つまで移動する予定だ。

ここからは絶対にしゃべってはいけない。

喋れば亡者たちの襲撃をくらうからだ。

沈黙を貫き最速でこの階層を通り抜けるのが俺たちのプランだ。

だが、ネピア最強の男が計画を台無しにする。

「わはははははははっ! なんだこりゃっ! はえーじゃねえか! イッペイもうちょっとスピードを上げてくれ!」

どうしても車両に乗りたがったロットさんが荷台ではしゃいでいる。

亡者などお構いなしで歓声を上げてるぞ。

ロットさんだけじゃない。

俺よりも年上の大人たちが初めての車両に大興奮なのだ。

この人達ってジャンがそのまま大人になった感じがする。

いや、ジャンの方がもう少しクールかもしれない。

「生者だあああああああああ!」

エリアの亡者たちが叫び声を上げながら集まってきてしまった。

こうなっては仕方がない。

プランBに変更だ。

「ボニーさん頼む」

「まか……せろ」

プランBとは、ボニーさんとジャンとマリアがワイヤーフックとマジックシールドを併用して高速で空中を移動しながら敵を排除し車両の道を確保する作戦である。

カイジンを討伐した際にボニーさんが編み出した例の移動方法だ。

「なんだありゃ!」

やばい、空中を変則的に飛び回る3人の姿を見て、ロットさんの目が少年のようにキラキラ輝いているぞ。

「イッペイ!!」

「はい……」

「あれと同じ奴をくれよ! 俺の持ってる魔石を全部やる!」

「いけねえ、隊長!」

すかさず『アバランチ』のメンバーから非難の声が上がる。

それはそうだ、魔石全部なんて割に合わないよな。

「自分だけずるいっすよ! 魔石全部なら俺たちの分もお願いします!!」

……こいつら、全員思考がボニーさんとジャンだ!

「そういうわけだ。頼む!」

そういって荷台の上に革袋に入った魔石をぶちまけるロットさん。

この人達はきっと生活に困ってないな。

見るとDランクが2個、Eランクが17個、F、G、H、Iランクは数えきれないほどだ。

シールドリングはHランクがあれば作れるし、ワイヤーフックは俺たちの予備が5セット(両腕に装備)ある。

さすがに全部はもらえないのでEランク魔石一つと交換した。

『アバランチ』のメンバーは全部で13人。

対して装備は5人分しかない。

一触即発になりそうな剣呑な空気だったので、即座に錬成でくじ引きを作った。

「悪いなイッペイ、気を使わせて」

照れ笑いをしながらロットさんがくじを引く。

いえいえ、ボニーさんレベルの人間が13人で喧嘩をして欲しくなかっただけです。

巻き込まれたら絶対に死ぬ気がするもん。

くじ引きの結果、ロットさんを含む5人がリングとワイヤーフックを装備する。

俺の簡単な説明だけで大体のことは理解したらしい。

「まあ、使ってみればわかるだろう」

そういって、ロットさんは上空15メートルの位置にシールドを出現させてワイヤーで登っていった。

いきなり高難度なことを苦もなくやって見せてくれる。

 青天の霹靂へきれきというのはこういうことを言うのだろう。

装備に慣れるまでの時間? 

そんなものはこの人達には関係ない。

最初から上手に操れている。

空中を華麗に舞う人々は徐々にスピードを上げていき、3分でボニーさんと同じレベルになっていた。

ジャンとマリアは既に追い越されている。

世の中にはすごい人達があったものだ。

瞬く間にこのエリア一帯の亡者は殲滅されてしまった。

亡者が消えたのはいい。

その代わりもっと恐ろしい人達がいた。

順番を待っていた残りの8人だ。

最初の取り決めでは15分したら交代するはずだったのだが時間は1分程過ぎている。

「おい、いい加減に降りてこい」

「そうだ、そうだ!」

だが飛び回っている人たちは楽しくてしょうがないらしい。

下の人たちを完全に無視だ。

「あいつらもう許さねえ……」

え? 高密度魔力?

「くらえ!」

この人、飛んでる人たちにマジックアローを放ったよ! 

危ないって。牽制とかじゃなくて狙いにいってたもん!

「ちっ、動きが早い」

「ワイヤーの支点を狙うんだ!」

「おまえ、頭いいなぁ!」

ちょっと! 

敵じゃなくて味方だよ! 

なんで確信犯的に同士討ちしてるんだよ! 

頭良くないよ!

全員バカだよ!!

「待ってください!! すぐに皆さんの装備も錬成します。ワイヤーフックは時間がかかりますが、マジックシールドリングなら本当にすぐです。これだけでも空中は走れますから!」

「お、そうか? じゃあ一つ頼むぜ、イッペイちゃん!」

夜店で焼きそばを頼むみたいに言わないで欲しい。

俺は大急ぎでマジックシールドリングを8個作り、続いてワイヤーフックを錬成した。


俺とゴブは敵のいなくなった街で魔石を回収しながら車両を動かすだけだった。

「(マスター、またケルベロスから魔石が出ていますぞ)」

「(今日は四個目じゃん。取得率がかなり高いなあ)」

思念で会話を交わしながら気楽なものである。

この階層で出た魔石は全部俺にくれるそうだ。

嬉しいけど錬成するまで気疲れしたから正当な対価としてもらっておこう。

他にもいいことが一つあった。

16人もの暴れん坊が飛び回った結果、一日で第六階層を通過できたことだ。

多分歴代最短記録ではなかろうか。

圧倒的戦力のお陰で今日中に五層の基地にたどり着けそうだ。

今夜は基地の風呂に浸かってから酒でも飲んでリラックスしたい。

爺ちゃんが持たせてくれた鮭で作ったスモークサーモンをつまみに、よく冷えた辛口の白ワインだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る