第86話 決め手は銀 勝負の赤

 迷宮妖精ラビリンスフェアリーのオットーとディナシーを連れ、『不死鳥の団』は四層6区へと向かっている。

彼らが1区の方までやってきたのは俺が迷宮の鉄扉をガンガン使ってしまったせいだから、責任を感じているのだ。

せめて6区までは安全で快適な旅をさせてやりたい。

スケベ爺のオットーはマリアの肩が定位置、ディナシーはジャンの頭の上が気に入っているようだ。

オットーがたまにわざと肩から胸へと滑り落ちるのがムカつく。

「あらオットーさん、気を付けてくださいね」

マリアの指につままれて肩に乗せられるときのオットーのスケベ顔は最悪だ。

しかもこれ見よがしにこちらに「いいだろう?」的な視線を向けてくる。

ああ、羨ましいよ! 


 それにしても気になるのはヴァンパイアの情報だ。

迷宮妖精ラビリンスフェアリーさらうヴァンパイアのエイベル・ハーカーはマリアの仇敵の部下らしい。

中ボスという奴だな。

もし遭遇してしまったら今の実力で勝てるのだろうか。

今夜にでも新たな装備を考えた方がよさそうだ。

ヴァンパイアとの戦闘で気を付けなければならない点は、まず奴らの再生能力だ。

肉体を少々傷つけたくらいではすぐに再生されてしまう。

ヴァンパイアを倒すには奴らの体内にあるコアと呼ばれる部分を破壊しなければならないそうだ。

だがコアの場所は個体ごとに違う。

頭かもしれないし太腿の可能性もある。

 次にヴァンパイアの弱点だが、聖属性の魔法に弱いそうだ。

マリアが神聖魔法の使い手なのだが、発動までに時間がかかるのが難点だ。

ハイドロキャノン(水鉄砲)に使う大量の聖水は今回持ってきていない。

こんなことならタッ君に積んで持ってくればよかった。

けれどもマリアは聖属性の付与魔法を使える。

アサルトライフルの弾に属性を付与してもらうことにしよう。

「マリア、後でアサルトライフルの弾を聖別せいべつしてくれないか?」

「はい、もちろん構いませんが……」

マリアは言い淀む。

「どうしたの?」

「イッペイさんたちはヴァンパイアと闘うつもりですか?」

「当たり前だろ? マリアはそのために迷宮に潜ってるわけだし」

マリアは首を振る。

「私はヴァンパイアの情報を得られたら、一人で戦いを挑みます。これは私の私怨です。『不死鳥の団』を巻き込むわけにはいきません」

相変わらずマリアは水くさいな。

もっと胸を開いてくれよ。

もとい、胸の内を開いてくれよ!

ジャンがこちらを向かずに言う。

「ごちゃごちゃうるせーな。ヴァンパイアがいたらヴァンパイアを倒す! 魔王がいたら魔王を倒す! それだけのことだろうが」

顔は見えないが耳まで赤くしているジャンが可愛い。

発言はなかなか男前だぞ。

でも、魔王が出たら逃げようよ。

「ヴァンパイアか……腕が鳴る」

ボニーさんは戦闘狂だ。

「気合入ってますね」

「うん……勝負パンティーはいてきた……赤」

戦闘と何か関係があるのだろうか? 

きっとあるんだろう。

他のメンバーもヴァンパイア討伐に依存はないようだ。

「みなさん、ありがとうございます」

マリアは少し涙ぐんでいた。

とりあえず迷宮妖精ラビリンスフェアリーを害するエイベル・ハーカーを放置するわけにはいかない。

冒険者にとって迷宮妖精は保護対象なのだ。

今回の探索で倒しそこなったとしてもギルドに報告が必要な事案だろう。

もう少し情報が欲しいな。

「聖魔法以外にヴァンパイアの弱点とかはないの?」

「ありますよ。ヴァンパイアには銀の武器も有効なんです。特にミスリルはよく効きます」

それは地球でも聞いたことがあるな。この世界でもそうなのか。

「アサルトライフルの弾を銀にしたいところだな」

メグが俺を睨みつける。

「しないって! さすがにそんな余裕はないよ。他に弱点はないのかな?」

「経典が苦手という話もありますが、本で殴るというのは現実的ではないですよね」

分厚い経典の角で殴られたら痛そうだけど、致命傷になるのか? 

いっそ、弾ごとに聖句の文言を書いてみるか。

今夜の錬成は長くなりそうだ。



 夜も更け、静かになると俺は錬成を始める。

今日は聖属性を弾丸に付与してもらうためにマリアも一緒だ。

ゴブ君、子どもは先に寝なさい。

ここからは大人の時間だよ。

「うが」

今の「うが」は「やだ」だな。

すぐわかったぞ。

「それじゃあ、俺が弾丸に聖句を書いていくから、出来たものから聖別していってね」

「はい。始めましょう」

道具作成と錬成の魔法を使い、二秒に一発くらいで聖弾丸ホーリーバレットの元を作っていく。

俺の方は一時間くらいで1500発の弾丸を作り終えた。

材料はやっぱり鉄扉だ。

ディナシーに各種スイーツを食べさせることで了解はとってある。

マリアの方は【MP】を回復させながらなので、少し時間がかかった。

その間、俺たちはいろいろな話をした。

お互いの故郷のことや、どうして神殿の祓魔師になったかなどいろいろだ。

マリアの父親は靴職人だったそうだ。

北のスコティスの街では少し裕福くらいの家だったらしい。

子供の頃は周りの人と同じように、年頃になったら普通に恋愛をして、どこかの靴職人と結婚するんだろうと漠然と考えていたそうだ。

だが、地区の神殿のボランティアをしている時に豊富な【MP】と神聖魔法の才能を見出されて教会にスカウトされたそうだ。

「あの時は嬉しかったんですよ。自分が特別な存在になった気がしたんです。両親も喜んでくれましたしね」

「やめてしまって後悔はないの?」

「ええ。今はこれでいいと思っています。長く神殿にいたので自由でいることが心細い気もしますけどね」

自由とは保障を失うことでもあるもんな。

「でもさ、これからは恋愛だって結婚だってできるだろ。マリアなら相手に困ることはなさそうだ」

マリアは頬を染める。

「あの、その、男女の仲になってしまうと……神聖魔法は使えませんから……」

消え入りそうなマリアの声に俺は思い出す。

神聖魔法は清らかな乙女のみが使える魔法だった。

非処女は使えないのね。神様はケチだな。

「あのさ。神聖魔法が使えるからマリアを仲間にしたんじゃないだぜ。マリアはマリアだから俺たちの仲間なんだ。好きな人ができたら迷わず恋してみちゃいなよ!」

マリアは照れながらもいい笑顔を見せてくれた。

「ところでさっきから何を作っているんですか? アサルトライフルのようだけど……もう少し大きいですね」

「軽機関銃ってやつでね、100発の弾が撃てるんだ。名前はミニミニ機関銃、ちょっと重いからメグに持ってもらおうと思ってるんだよ」

「100発は凄いですね」

「Fランクの魔石を7個も使うことになったけどね」

製作費用が魔石だけでも21万リムだ。

魔力を利用した銃は反動がなかったり、銃身が熱くならないので運用が楽だ。

本当は全員機関銃でもいいが、重たいのでアサルトライフルの方が扱いやすいし命中精度はいい。

メグには軽機関銃で弾幕を張ってもらったり、パーティーの支援をしてもらうつもりだ。

俺もこれを使うことにしよう。

俺ならMPに際限がないから300発の弾倉がつかえる。

ただ、俺は非力だから持ち運ぶのは無理だな。

普段はタッ君に載せておこう。

こいつは二脚が標準装備だから非力な俺は地面に置いて使うことになるな。

 今日はここまでにしよう。

明日はいよいよ6区だ。

天然ゴムをはじめ有用なものが色々あるらしい。

忙しくなりそうだ。



鑑定

【名称】ミニミニ軽機関銃

【種類】軽機関銃

【攻撃力】312

【属性】無し

【備考】有効射程肩撃ち800メートル 装弾数100発/200発/300発 重量9㎏(100発装弾時)1発撃つごとに消費MP2 「狙撃」の習得が可能になる。無反動。

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