第112話 砂漠の街
拠点を活用しながら亡者の街をぬけて、『不死鳥の団』は第七階層へと下る階段にたどり着いた。
他の階層よりも短い階段を降りると四人のギルドカードは書き換えられ、俺たちは第4位階の冒険者になった。
「へ、へへ」
ジャンが薄く笑っている。
「どうしたジャン? 」
「だって、第4位階だぜ。ついにトップパーティーの奴等と並んだんだぞ。感動もするさ」
言われてみればそうだ。
当代の冒険者たちの最高到達階層はここ、第七階層なのだ。
その下の第八階層へ冒険者がたどり着いたのは100年以上前の話だ。
階段の下は長い回廊が続いていて、突き当りにはドアが付いた部屋があった。
慎重に扉を開けるが中に魔物はいない
。あるのは魔法陣が書かれた床だけだ。
この上にのれば砂漠エリアへと転送される。
「俺とゴブが最初に行くよ」
パーティー内で最弱ではあるがマモル君のお陰で瞬間的に防御力720のマジックシールドを自動作成できる俺が行くべきだろう。
タッ君に指示して魔法陣の上に乗らせる。
俺とゴブはタッ君に乗ったままだ。
「問題がなければ一度こちらに戻ってくるよ」
足元の魔法陣が光り、俺たちは砂漠エリアへ飛ばされた。
転送先は建物の内部だった。
それほど大きくはない。
石造りの
外に出てわかったが、この建物は小高い丘の頂上に建っていた。
頂上から麓ふもとにかけては緩やかな斜面が続いている。
ところどころに背の低い木が生えててほとんどは畑だった。
畑の向こう側には街が見える。
あれがワルザドの街なのだろう。
そして街の向こうに砂漠が広がっていた。
魔物などは一体もいない。
遠くに畑で作業をする人を見かけるだけだ。
牧歌的な雰囲気が漂っている。
ゴブに皆を連れてきてもらい、俺たちはのんびりと町へと続く一本道を下っていった。
「こんにちは旅の方。不思議な荷車に乗っているね」
「よく来なすった冒険者の方々。魔法の荷車かい?」
「ここはワルザドの街です」
「こんにちは。午後から風が吹くから注意しなさい」
ロープレのNPC風の挨拶もあったが、道ですれ違うペロペロ族の人たちはとても気さくで、気軽に声をかけてきてくれる。
気候はきびしいが親切な土地柄のようだ。
「こんにちは。とりたての果物いりませんか?」
大きなかごを背負った12歳くらいの女の子が果物を売りに来た。
眼のぱっちりした可愛らしい少女だ。頭には赤い布を巻いている。
山の斜面には畑が広がっているからそこでとれた果物だろう。
買ってあげたいけど、まだラーサ砂漠の貨幣を一枚も持っていない。
事前に下調べしたが砂漠の通貨はディルという。物価は砂漠エリアの方が安い。
女の子が背負っている大きなスイカが一つ100ディルで、ザクロは50ディルだった。
ネピアならスイカは600リム、ザクロは700リムくらいする。
スイカはネピアでも栽培されているが、ザクロはないので高くなるのだ。
緑色をしたブドウが美味しそうだ。
「ごめんな、欲しいんだけどまだこの辺のお金を持っていないんだ」
「お金ないの? だったらスイカ一個上げるよ!」
やはりペロペロ族は親切な人が多いようだ。
こんな子どもまで他人を気にかけている。
「いや、砂糖や布なんかを持ってきたから、これを売ればお金は作れるから大丈夫だよ」
「そっか、私も街まで帰らなければいけないから乗っけていってくれませんか? その代わり交易所まで案内します」
「そうかい? 助かるな」
ゴブが女の子と果物が入った籠を荷台に乗せてやった。
女の子はゴブを不思議そうに見つめる?
「あなたは
「いいえ、お嬢様。ゴブはゴーレムでございます」
「ゴーレム?」
「ええ、こちらのマスターによって生み出された被造物です」
「へえ、じゃあこの人は偉い魔法使いで、貴方は良い
「はい。マスターはダメなりに立派な魔法使いであり、ゴブは善良なゴーレムでありたいと常々願っております」
善良なゴーレムはマスターを
ゴブと女の子で話が盛り上がっている。
ジンというのは人に
魔人とか精霊とか魔族のことをいうようだ。
「私はノエミっていうの。貴方はゴブね」
「はい。ノエミ様、貴方は目が大変に美しい。雨上がりの夜空に映える満月の様に魅力的でございます」
「そんな……ゴブは人を褒めるのが上手なのね」
「女性に出合ったら褒める。これがゴブの流儀でございます」
何をやっているんだゴブは。
街につくまでゴブとノエミは街のことや自分のことなどの会話で盛り上がっていた。
「ゴブちゃん、スイカ食べる?」
「ノエミ様、私はものを食べることはできません」
ゴブが少し寂しそうに答えている。
「そうなんだ。美味しいものを食べられないなんてかわいそう」
「はい。ゴブもものを食べてみたいです。ですがゴブは人が美味しそうにものを食べている姿を見るのも大好きです」
「そっかあ。私のお父さんは料理を作るのが上手なのよ。ゴブちゃんにもお父さんの料理を食べて欲しかったな」
ノエミの父親は料理人か。
ワルザド料理はちょっと気になるな。
「ノエミ、君の家は料理を出す店なの?」
「ええ。料理だけじゃなくて宿屋もやっているわ。『ランプの明かり亭』っていう店よ」
それはちょうどいい。今夜の宿を探さなければならなかったところだ。
「俺たち、今夜の宿を探していたんだ。今日『ランプの明かり亭』の部屋はあるかい?」
「うん。多分大丈夫です! ラクダ市が立つとき以外はあんまり混まないから」
今夜の宿はそこで決まりだな。
街中に入り人が増えてきた。
白っぽい石造りの建物ばかりだ。
ワルザドは人口が2万人くらいいる。
砂漠エリアでは最大級の街だ。
砂漠エリア全体でも人口は4万人くらいと言われているので、半分くらいがこのワルザドに住んでいることになる。
道行く人々はタッ君やT-MUTT車両を不思議そうに眺めていた。
あまりにも当たり前に人々の営みがあるので、ここが迷宮の中だということを忘れてしまいそうだ。
ここに住む人たちは意識しているかどうかはわからないが、ここは見えない壁に閉ざされた迷宮の中なのだ。
ノエミが案内してくれたのは表通りにある大きな交易所だった。
ワルザドで一番規模が大きいそうだ。
マリアとジャンにはノエミを送って先に宿の手配をしてもらうことにして、交易所には俺とボニーさんとゴブで向かった。
「いらっしゃいませ、冒険者の皆さん」
豊かな口ひげを生やし、青いターバンに白いシャツを着た瘦身の男が応対してくれた。
眼は鋭く腰には曲刀を下げている。
だが殺気というものはまるで感じない。
いくつもの修羅場を潜り抜けてきたせいか、最近俺でもなんとなくその手の気配を感じ取れるようになってきている。
ボニーさんに言わせるとまだまだ甘いらしいが。
「こんにちは。砂糖や布を現金に換えたいのですが、こちらで可能ですか?」
俺が品物を持ってきたのを知ると、男は目を細めて喜んだ。
「もちろんです。私はこの店の番頭でサマドと申します。早速荷物を見せて頂けますか」
今回俺たちが持ち込んだ品物は多岐にわたる。
砂糖、綿の布、紅茶、コーヒー、銀のインゴット、宝石各種、薬草などだ。
なぜ種類を多くしたかと言えば、相場の値動きに対応するためだ。
たとえば冒険者が砂糖をたくさん持ち込めば、商品がだぶついて砂糖の値段が下がってしまうこともある。
この場合、もし砂糖しか持っていなかったら見込んでいただけの貨幣を得ることはできない。
そういった事態を避けるための処置として、各種の交易品を用意したのだ。
「荷車を向かいの倉庫へまわして下さい」
店舗前の通りを挟んで大きな倉庫がある。
タッ君がそのまま入っていける大きな入口が開いていた。
商談は倉庫の中で品物を見ながら確認するという。
俺とボニーさんはタッ君と車両を倉庫の中へと動かした。
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