第64話 ネピア・サイドワインダー

 初日は時間を節約すべく、なるべく戦闘を避けてすすんだ。

迷宮にも幹線道路的な人通りの多い道というものがある。

そこを通れば人が多い分魔物は少ない。

俺たちは当初の予定通り、その日の内に5区の階段付近までやって来ることができた。

今夜はここで宿営して、明日の朝一番に第二階層に降りることにした。

真冬ということで迷宮の中もすごく寒い。

薪をたくさん持ってきてよかった。

俺たちは一晩中火を焚いて、寄り添うように眠った。


 翌日も順調に進んでいく。

俺のギルドカードも第二階層到達と同時に第9位階に変化した。

二度目だから感動はないけどね。

そして、第二階層と言えば俺の天敵スケルトンだ。

貫通系の銃器がメインウェポンの俺にとって、破壊を要するスケルトンは非常に相性が悪い。

ハンドガンは役に立たないし、ハチドリの攻撃もあまり効かないのだ。

前回は一発3000リムの手榴弾を使ってメグに怒られた。

収支計算で赤字になるのがいけないそうだ。

ということで今回はもっとエコな武器を作ってみたぞ。

手榴弾を飛ばすグレネードランチャーがなぜ怒られたか? 

手榴弾が高いからです! 

そう、飛ばすものが安ければ問題はない!

「おっさん、そろそろスケルトン地帯だからな。後ろに隠れていろよ」

「ふっ、ジャンよ。俺が仇敵に再開するのに何の用意もしてこなかったと思うのか?」

「もしかして新兵器を開発したのか?」

「当然だ。見ろ! これがハイドロキャノン・デラックスだ!」

みなが俺の新兵器を見て驚く。

「イッペイさん。それ、前のグレネードランチャーと同じじゃないんですか?」

メグが怖い顔で睨む。

確かに形は似ているが似て非なるものだ。

「ちがう、ちがう! 前のあれは手榴弾を飛ばしたけど、今回飛ばすのはただの水だ。いやただの水ではないな。聖水だ!」

そう、俺が作ったのは高性能の水鉄砲だ。

「その聖水いくらしました?」

メグがジト目で聞いてくる。

「聖水を桶一杯下さいって言ったら、神官がすごーく厭な顔したけど、金貨1枚見せたら承諾してくれたよ」

「1万リムじゃないですか!」

怒り狂うメグを俺はなだめる。

「待ってくれメグ。確かに1万リムだが、桶一杯で1000発以上は撃てる! 1発10リム以下だ!」

メグはまだ不服そうにしていたが、1発10リム以下ということで納得してくれたようだ。

ちょうどスケルトンたちも来たようだ。

集まってこい、集まってこい。

お前らに聖水のシャワーをぶっかけてやるぜ。

仲良く昇天しちまいな!

「ここは俺に任せてもらおう」

ハイドロキャノン・デラックスの射程は17メートルある。

飛び道具を持たないスケルトンなど俺の敵ではない。

くらえ! 

あれ? 

なんで発射されないの? 

あっ!

「どうした、おっさん?」

「寒さで聖水が凍ってる…」

「もう! 馬鹿ですね! ゴブ行きますよ!」

前回同様、聖属性のついたメイスを持ったメグとゴブが中心になったデストロイヤー・フォーメンションでスケルトンを壊滅させる。

俺が生活魔法で聖水を解凍する頃には戦闘は終了していた。

……今回はドローということにしておいてやる。

俺とスケルトンとの戦いは続くようだ。



 10時くらいに俺たちは第二階層4区に入った。

既にスケルトンたちはどこにも見当たらない。

結局ハイドロキャノン・デラックスを使う機会はなかった。

4区に入ってしばらく進むと床の石畳はなくなり、ごつごつした岩が連なる岩稜地帯になった。

壁も岩のつらなりだ。

7メートルくらい上にある天井も岩だらけ。

つまり岩を重ねた様なトンネルの迷宮になった。

歩きづらい岩場は容赦なく俺たちの体力を奪っていった。

第二階層4区が狩場として人気がワーストワンだとは聞いていたが、今なら納得できる。

歩きづらいし、休憩ポイントはないし、魔物がいない。

ほとんど見ないのだ。

ごくまれに大型犬くらいのウサギの魔物が岩穴から飛び出してくるくらいだ。

それもこちらが反撃するとすぐに岩穴に逃げてしまう。

仕留められたのは1匹だけだった。

仕留めたのはクロのハンドガンだ。

クロの抜き打ちが早くなっている。

俺も西部のガンマンみたいに練習してみることにする。

いろいろ苦労する4区だが、慰めはこのウサギの皮が高級素材であることと、肉が美味ということだ。解体して皮は持ち帰り、肉は昼が近かったのでその場でシチューにした。ウサギ肉に塩、コショウをして焼き、ドライトマトや玉葱、ポロネギ、人参、ニンニク、かぶ、タイム、ベイリーフ、などと一緒に白ワインと水で煮込んだ。寒い時は暖かい汁物がうまいね。

「イッペイ…」

「どうしたんですかボニーさん」

「食べさせてあげる…」

ボニーさんの目が少しコケティッシュですよ。

見上げるような視線でどうしたの?

「はい…あーん…して…」

やばい、くらくらするほど可愛い。

でも…。

「…ニンジンは自分で食べなさい」

「ちっ」

そんなこんなで俺たちは休憩を挟み、ついに5区に突入した。


全長10mを越える蛇というのは地球にもいる。

インドや東南アジアにすむアミニシキヘビや南アメリカに住むオオアナコンダなどだ。

毒蛇では全長が5m以上になるキングコブラが地球上最大とされている。

一方、この世界のネピア・サイドワインダーは全長5mほどなので見た目はキングコブラみたいな感じ?と思われるかもしれない。

実は魔物と呼ばれるだけあって、もっと凶悪だ。

長さは同じくらいなのだが太さが違う。

その太さは一般成人男性の太腿くらいあると思ってくれ。

毒蛇であり神経毒を上顎にある牙から注入する。

暗い迷宮に住むので視力はよくない。

逆に言えばヒカル君のフラッシュ攻撃がきかない。

もともと眼が悪いんだから、目潰しなんか平気ということだ。

その代わり嗅覚がいい。

口の中にある感覚器で匂いを知覚できるそうだ。

その能力は犬をも凌ぐという。

また、目の間に動物の体温を感じ取る赤外線感知器官をもっていたり、耳がない代わりに地面の振動に敏感だったりもする。

普段は岩陰に潜んでいて、敵の死角からの奇襲を得意とする魔物だ。

近接戦闘を苦手とする俺には相性の悪い相手だ。

あれ? 

俺と相性のいい魔物なんていないか! 

敵より先に相手を見つけ、遠距離からの先制攻撃が俺の基本だ。

今後は索敵用ゴーレムが必要になってくるな。



噂を聞きつけたのだろう、6区には既に数組のパーティーがいた。

その中の一組が印象深い戦い方をしている。

魔法使いが蛇の巣穴に火炎を流し込み、たまらず別の出口から出てきた大蛇をみんなでタコ殴りにする方法だ。

かなり効率よく狩っている。

「おい、おっさんもあれできないのか?」

「俺の生活魔法じゃ、お湯を沸かすのが精いっぱいだぞ」

ジャンが棒で巣穴のような岩穴をつつくが何の反応もない。

人が多いせいか、ネピア・サイドワインダーから攻撃してくるようなこともなかった。

どこかに逃げたか、穴の奥でじっとしているのだろう。

 蛇を食材にするかどうかで揉めているパーティーもいたぞ。

食べられないことはないそうだ。

地球でも世界のいろんな国で蛇は食べられている。

テレビで見たことがあるが、台湾の屋台で蛇のスープや、焼きそば、蛇丼とかが売られていた。

スープは特にアレだった。

鱗とかの形状がそのままで、ザ・ヘビ! って感じだ。 

味は水っぽいらしい。

炒め物とかは美味しそうに見えた。

すすんで食べたいとは思わないがちょっとくらいなら試してもいいかな? 

淡白な味らしいから濃い目の味付けがよさそうだ。

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