第104話 聖女のおなら

スパイ君ミニたちのおかげでポーの居場所は判明した。

1台犠牲を出してしまったがまずまずの戦果だ。

「奴は12階の北側奥の部屋に居ることは分かったけど狙撃は無理だよな」

ポーの部屋がある場所は俺たちが居る拠点からも見える場所だが、奴の部屋には窓がない。

ゴブゴさんに狙撃を依頼するわけにもいかなかった。

「いっそゴーレムに爆弾を積んで突っ込ませるか?」

「おっさん、爆弾ってなんだ?」

「グレネードより更に強力な破壊力をもつ武器だよ」

魔石のストックが心配だが、詰め込めば強力な爆弾は作成可能だ。

「大きさはどれくらいになりますか? スパイ君でさえ見つかりました。ポーのところにたどり着く前に見つかると排除される恐れもあります」

マリアのいうことも一理ある。

強力な爆弾はそれなりに大きくなってしまうからな。

「もう少し奴の様子を探ってみるか」

スパイ君ミニには帰還命令を出したが、12階にはいまだ5体を待機させたままだ。

しばらくポーの生活を探ってみよう。

近づきすぎると前回のように見つかってしまうので、12階の廊下を監視するにとどめる。

奴の生活パターンがわかれば攻略の糸口が掴めるかもしれない。


記録を取りながらヴァンパイアの生活を監視し以下の情報を得られた。

まず最初に特筆すべき点は、ポーはほとんど部屋から外に出ないということだ。

どんだけ引き篭もりなんだよ。

ネットもゲームもない世界なのに信じられない!

ではポーは何をして過ごしているかという点を書いていこう。

奴の身の回りの世話をするのは一人の執事だ。

性別は男で初老に見える。

名前はセバスチャンじゃないのか? というくらいにステレオタイプの執事だ。

ボニーさん曰くこの男の戦闘力も侮れないそうだ。

この渋い執事が朝食を運ぶところから奴の朝は始まる。

残念ながらスパイ君は室内には入れないのでドアの外の様子がわかるだけだ。

食事はどこから持ってくるのかそれなりに豪華なものが運ばれてくる。

そして食事には必ずグラス一杯の生き血が添えられている。

色からしてワインではない。

あの血はどこから持ってくるのだろう。

建物内に血を取るための冒険者が捕らえられている可能性がある。

それらしき場所を11階で確認しているがスパイ君ミニはまだ潜入には成功していない。

建物の構造がスパイ君には不利な作りなのだ。

捕虜がいるとしたら「ジューc—4爆弾」で建物を倒壊させる作戦はますますとれないな。


朝食が終わると読書の時間らしい。

執事が本を運んできたのでそうなのだろう。

二時間後、読書に飽きたらしく奴はついに部屋をでた。

気付かれないように後をつけていくと、そこは広い訓練場だった。

扉が開かれたままだったのでスパイ君も内部に潜入できた。

室内には元冒険者と思われる亡者が何人か控えている。

こいつらを相手に訓練を行うようだ。

「『鉄鎖の群』のジョナスだけじゃない。『餓狼』のアンデーや『鉄拳』のカズーヤまでいるぜ!」

上級冒険者フリークのジャンが興奮している。

どいつも元凄腕の冒険者であり、戦士だったらしい。

奴らの強さは訓練内容を見ればよくわかる。

まさに圧巻だ。

そしてそんな凄腕と訓練するポーの剣技も凄まじかった。

「やっぱり直接対決は嫌だよな」

「私は……やってみたいぞ」

ボニーさんだけです。

「俺もやってやるぜ!」

ジャンもかよ。

「あれほど腕の立つ亡者を複数相手にするのは大変ですね」

さすがにメグは現実をよく見ている。


訓練で汗を流した後は自室に備え付けられた風呂を使うようだ。

執事とメイドがタオルや服を運んでいるぞ。

そのまま観察を続けていたら執事だけ出てきた。

部屋に入っていった3人のメイドは何をしているのだろう。

スパイ君の高性能マイクが内部の声を拾っている。

「ザカラティア様、こちらはすっかり綺麗になりましたよ」

こちらってどちら?

「まあ……すっかりご立派になられて」

成長期?

「ああ……こんなところで……」

うん、お風呂に入っているんだね。

しばらくしてメイドたちの嬌声が廊下にまで響いてきた。

マリアもメグもいるし、どうにも居心地が悪い。

上層階で働いているメイドは数えてみると48人もいたが、ポーのやつはその時だけでなく夕方や夜にも楽しんでいた。

その都度1〜3人のメイドで順番に相手をしているようだ。

まるでエロゲーのように朝から晩まで頑張っている。

1日に10人は相手にしてるんじゃないのか?

まさにヘビーローテーションだ。

しかもこのメイドたちも戦闘力が高い。

情事の隙をついて奇襲しても手痛い反撃に会う可能性は大だ。

とんだチーレム野郎だぜ。

だが、ポーは深夜までお楽しみだが寝る時は一人で寝る。

事が済んで後始末をすますとメイドたちは部屋を退出するのでその後を狙おう。

奴が身も心も満足して気持ちよく眠っているところに冷水をぶっかけてやるぜ! 

ざまあみろ! 



 深夜。俺たちはワイヤーフックを使いラビリンスタワーを登り、屋上に潜んでいた。

モニターを見つめていたゴブが報告する。

「マスター、メイド2人がポーの部屋から出てきました。だいぶ疲れている様子です」

今夜もたっぷりとお楽しみだったようだ。

メイドたちは廊下を抜け11階へ降りていった。

これで12階にいるのはザカラティア・ポー唯一人だ。

「30分後に突入を開始する。ナイトビジョンの最終チェックをしておいてね」

きっかり30分後に行動を開始した。

最初に錬成魔法でポーの部屋の天井へ小さく穴を開けて室内にガスを流し込む。

ただのガスじゃない。

シャーロット婆ちゃんの指、つまりパウダー状にした聖遺物が入った超強力な聖属性のガスだ。

俺たち普通の人間には何の効果もないが聖属性が苦手なバンパイアには特に高い効果を示すはずだ。

奴の部屋には窓がないから換気も出来ないという点も有利に働くだろう。

同時にスパイ君も部屋に突入。

「ぐぅうう……」

ポーがベッドの上でのたうち回っている映像が送られてくる。

「なんか不意打ちとか奇襲とかばっかりだよな」

「不満かジャン?」

「不満っていうかよう、こっちが悪者みたいだ」

「俺たちは正義の味方じゃなくて冒険者だからいいんだよ」

お互いに名乗りを上げて、正面から正々堂々とぶつかったら負けてしまうかもしれないじゃないか。

充分ガスが充満したところで穴を広げて俺たちも突入した。

「き、貴様らは……」

さすがはヴァンパイアの親玉だけあってシャーロットガスだけでは倒せなかった。

こうなれば核コアを破壊するしかない。

マリアが一歩前にでる。

「ザカラティア・ポー、ここまでです」

「貴様……覚えているぞ。たしか神殿の……」

一切の会話は無視して、医療スキルのスキャンを使いコアの位置を確かめる。

「ここだ」

俺がレーザーサイトで指示した場所を見てポーの顔が驚愕に歪む。

「な、なぜ」

ポーの質問に答えるものはないまま6丁の銃から聖属性弾丸ホーリーパレットが発射された。

計180発の弾が撃ちこまれた後、徐々にポーの身体が干からびていき、最後には灰となってしまった。

鑑定結果も消滅になっている。

「終わったな」

「まだ……この塔にいる眷属も」

気乗りはしないが全部倒さなければならないようだ。

確かに48体の眷属と執事を放置しておくわけにもいかない。

「マスター、11階の執事たちが異変に気が付いたようで、階段を上ってきます」

「了解した」

長い戦いの夜は続きそうだ。

夜明けはまだ遠い。

「ゴブ、亡者たちは?」

「ポーが消滅して支配から解放されたようです。上がってくるのは眷属たちだけです」

「そいつはありがたい」

俺は大きく息を吐きだして、シャーロットガス弾の安全ピンを抜くのだった。

聖女のおならをくらうがいい。

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