第43話 トイレの画伯
ボトルズ王国、王宮の一間でコーク侯爵と王の侍従が話をしていた。
コーク侯爵は長身の瘦せ型で侯爵の身分に相応しい壮麗な身なりをしている。
いかにも困った様な顔をして侍従は侯爵と話している。
「何とかなりませんか。陛下にあらせられましては例の薬をひどくお気に入りあそばされております…」
「うむ。バイアッポイ・スペシャルか…」
「在庫もあとわずかとなりまして…。陛下は最近側室となられましたデボラ様にご執心でございます。時間が長くとれる時は薬を用いてお楽しみあそばされるのが、ここのところの常でして…」
国王は43歳。
若くもないが年寄りでもない。
子どもは姫ばかりが3人いる。
正室に1人、側室に2人だ。
だが後継の王子はいない。
王室としては子作りに励んでもらい、一刻も早い王子の誕生を望んでいる。
側室相手とはいえ、夜ごとの王の
「その薬だがな、我が配下のチェリコーク子爵が外国の薬剤師に作らせていた薬なのだよ」
「それは存じております」
「うん。その薬剤師だが、迷宮からの魔石持ち出しの禁を破り、今はどこぞの収容所に移されているそうだ」
「左様でございますか…。薬の製法は?」
「残念ながらわからんな」
「ではそのものに恩赦を与えていただくわけには…」
侍従の言葉に侯爵は眉を吊り上げる。
「そんなことはできんよ。無理に法を捻じ曲げるような行いをすればヘブシ侯爵あたりに何を言われるかわからん」
ヘブシ侯爵はコーク侯爵と同じ四大侯爵の一人でライバル関係にある。
ちなみに西のコーク侯爵、東のヘブシ侯爵、北のスプラウト侯爵、南のファンティア侯爵が四大侯爵だ。
「しかし王子ご生誕が切望される今、あの薬は王室としても非常にありがたく…」
「わかっておる。儂からチェリコークに事情を聴いてみることにする。もうしばらく待ってもらいたい」
「畏まりました。何卒よろしくお願いいたします」
コーク侯爵から一応の言質は貰えたので侍従は下がっていった。
「(まあよい。ここで薬を届ければ王の覚えもめでたかろう。水は乾けば乾くほど甘く感ずるもの。王にはもうしばらくご辛抱願おうかのぉ…)」
悪い笑みを浮かべながら、侯爵は自領にいるチェリコーク子爵へ手紙を書くのだった。
猿神様ことジョージ君のもたらす肉のことは囚人たちによって秘匿されていた。
万が一にも兵士に見つかれば取り上げられてしまうし、他の棟の囚人たちに見つかっても争いの種になるだろう。
管理体制を楽にするために、各収容棟の間で囚人の行き来は制限されている。
おかげで他の棟の囚人に見とがめられることはなかったが、兵士たちは疑問を抱いた。
「おい、お前らはやけに小奇麗にしてるではないか」
朝食を運んできた下級兵士が牢名主のジグに問いただす。
「ああ、それか…、なんというか、俺たちは仕事終わりに水浴びをすることにしたんだ。綺麗にしておけば傷も早く治るからな」
「この寒いのにか?」
ジグはみるからにイライラしている。
「そううるさくするなよ。お前にはいろいろ便宜をはかってやってるだろう?」
この兵士もジグに買収されているのだろう。
「問題は起こしてねぇんだ。俺たちの棟の銀の産出量は上がってるはずだろう? だったらそれはアンタの手柄にもなるんだ。収容施設内のことは俺に任せておけよ…」
ジグの言葉に兵士も納得する。
兵士にとっては銀さえきちんと出荷できていればそれでいいのだ。
この施設内で何が起ころうと知ったことではない。
こうして猿神様の祝福は問題なく続けられることとなった。
最近では怪我や病気が治るのも、服や体が綺麗になるのもみんな猿神様のおかげということになっている。
俺にとっては都合よくことが進んでいた。
だがうまいことばかりではない。
人生いいこともあれば、悪いこともあるということだ。
俺は今、二人の男に収容棟裏で追い詰められていた。
「えーと、どういうことかな?」
男が息を荒げながら言う。
「いいからさっさと服を脱ぎな。素直にいうことを聞けば優しくしてやる」
生まれて初めて俺は欲望の視線を向けられている。
冗談じゃない。
おれにその気はない。
俺ははノンケだ。
100歩譲ってもクロ並みの美少年じゃなきゃ嫌だ。
…だめだ! それでもだめだ。
あいつの股間にはオーガが宿っているとジャンが言っていた。
「へへへ、無理やりでもいいんだぜ…」
凄く下衆な顔だ。
今俺は全世界のクッコロさんに謝りたい!
いままで興奮して本当にごめんなさい。
貴女達はこんなに恐ろしい気持ちにさらされていたのですね。
「へへ、こいつ涙ぐんでやがる」
男の一人が下卑た笑いを漏らす。
違うわ! お前らが怖くて泣いたんじゃない。
すべてのクッコロさんに同情して泣いたんだ!
これは何を言っても無理そうだ。
だが、まともに戦えば到底勝てる相手ではない。
身体強化ポーションを飲んでいても無理だろう。
でも俺、余裕があると思わないかい?
実は理由がある。
俺にはゴーレムがついているからだ。
ジョージ君ではない。
この場所で襲われてはっきり言って助かった。
これが坑道の中だったらどうしようもなかったから。
俺は屋根の上に隠れた2体のゴーレムに思念を飛ばす。
「(バリ! バンペロ!出番だ起きてくれ)」
久しぶりのハチドリゴーレムだった。
俺がギルドから移送される日、おそらく『不死鳥の団』の皆が休眠状態の2体を連れてきてくれたのだろう。
馬車が通り過ぎる時に俺の存在を感知したバリとバンペロは起動し、指示により馬車の上に待機してここまでやってきたのだ。
ハチドリたちの体長は20センチなので普段は屋根の上で休眠状態になっていれば見つかることはない。
これが俺の奥の手だった。
俺にはこいつらを殺す覚悟はないが、太ももくらいはうちぬいてやる。
その後の治療は止血だけだ。
「貴様らぁ! なにをやっとるかぁ!」
大音声が響き渡り、現れたのはゴードンだった。
俺は即座にハチドリ達を元に戻す。
「イッペイ、
「助かったよゴードン」
ゴードンの実力を知っている男たちは舌打ちをしながら逃げていった。
あいつらはユーライアと同じ勃起障害の刑に処してやりたい。
いい材料がないか探してみよう。
…だけど、実際女っ気がなさすぎなんだよね。
性欲が溜まるから男でもいいや、という感じになるのかもしれないな。
日本の刑務所ではHな本をトイレに持ち込んで処理するらしい。
ここの奴等にオカズはない。
いくら俺が生産特化型でもエロ本は作れないしなぁ。
だが、このままだと、いつまた俺が性の対象として見られるかわかったものではない。
何とか緩和してみるか…。
その日、俺はトイレの壁に下手くそな裸婦像を描いた。
うむ、まさに画伯だ。
芸術性のかけらも、エロ漫画のような
地球の男たちがこれを見たら「プッ」と吹き出してしまうような代物だ。
こんなもん効果があるわけないか、と思っていたらその個室に人が並ぶ並ぶ。
どんだけ飢えてんだよお前ら!
…まあいい。
これで性犯罪が減ってくれれば、俺もうれしいよ。
明日は他の個室にも書いてやるとしよう。
なんかこいつらが哀れになってきた…。
…ううっ、パティー俺も寂しいよぉ!
その夜、トイレの画伯はどのポーズが一番男心をそそるか考え、実際に自分でそのポーズを鏡の前でとってスケッチした。
鏡は画伯が素材錬成と道具錬成で作り出した銀の鏡だ。
この行為は画伯が己の阿保さ加減に気が付く夜中まで、坑道の奥で続けられた。
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