第89話 ゴブゴ13

 ジャンを追いかけていたジェイルオーガを倒し、俺たちはオットーとディナシーを6区のミシャカ池まで送り届けた。

時刻はもう夕方だったが俺は皆を説いてハーカーの部屋を調べにいった。

ジャンが言うにはハーカーの部屋には大量の書類や素材が置いてあったそうだ。

今後の迷宮探索やヴァンパイア退治の役に立つヒントがあるかもしれなかった。

ハーカーの部屋はジャンが地図にマーキングしておいたので探すのに苦労はない。

俺たちは夜の9時を過ぎて、ようやく目的地にたどり着くことができた。


 扉を開けると室内はむせ返るような薬品の匂いが充満していた。

壁には各種標本が並んでいる。

生態標本まであってこれには閉口した。

瓶に詰められた妖精たちは後できちんと埋葬してやることにしよう。

 ハーカーの服のポケットにあった魔道具はやはり転送魔法のための機械だった。

「じゃあ、これがあれば迷宮の好きな場所へ移動できるんですか?」

クロの質問に俺は首をふる。

「そんなすごいもんじゃないよ。これはリモコンみたいな……って言ってもわからないか。そこにでっかい魔導装置があるだろう。あれが親機でこれが子機だ。子機のボタンを押すと所持者の周りで魔法陣が発生して親機の元へ転送される仕組みだ」

「それでもすごいじゃないですか。親機を階層の奥地へ置いておけば、迷宮の入口からでもすぐに深層へとべるわけでしょう?」

「この装置で階層を飛び越えることはできないよ。せいぜい隣のエリアに行くのが精いっぱいだな」

階層を飛び越えようと思ったらAランクの魔石が必要になるだろう。

そもそもハーカーはこの装置を動かすために、最終的には魔石や魔力ではなく空気中の魔素を使おうとしていたようだ。

空気中に含まれる魔素を人工的に魔力変換できれば個人の持つ魔力や魔石は必要でなくなる上、無限の魔力が得られることにもなる。

実際にハーカーが持っていた子機は魔石と魔力と魔素を取り込むハイブリット式だ。

周囲の魔素を取り込むときにディナシーからも大量の魔素を吸い取ったのだろう。

だが、エネルギー変換効率は非常に悪い。

Iクラスの魔石で済むところを、大量の魔素で代替だいたいしている欠陥品だった。

転送装置はとても実用レベルとは言い難い代物で、少しがっかりだ。

 その他にはキメラという人工的に作り上げた魔物の研究レポートがあったが特に興味を惹かれるものではなかった。

所詮ハーカーは雑魚キャラだったようだ。

中ボスかもしれないなんてビビッて損した気分だ。

だが、ハーカーの持っていた素材は素晴らしかった。

魔石や迷宮大蜘蛛の糸、魔物の革、金属、試薬、などなどが見つかった。

今晩の錬成も忙しくなりそうだ。



 夜も更けて俺は錬成を開始する。

ボニーさんとジャンはいつも通り早々に寝てしまった。

マリアとメグも疲れていたらしく小さな寝息を立てている。

「クロも寝ていいんだぞ」

「いえ、手伝いたいんです」

相変わらずクロは優しい子だ。

今夜は最初にゴム底のブーツを作成した。

革製だから少し重いが防水で便利だ。

出来上がった靴にクロがレッドボアからとれる油を塗って仕上げていく。

最初にクロの分を作った。

「どうだ履き心地は?」

「いいですね。滑らなくて動くのがすごく楽です」

既に足の型はとってあるので他のメンバーの分の靴も錬成していく。

オイルを塗りながらクロが質問してきた。

「イッペイさん、やっぱりゴブに銃を持たせるのは無理ですか?」

「ゴブにはMPがないからな、弾を打ち出すことはできないんだよ」

俺の言葉にクロは首をひねる。

「でも手榴弾なら使えるでしょう」

「あれは手榴弾本体に魔石を使っているからMPで爆発を起こしてるわけじゃないんだよ」

「だったら……弾を魔石で作ればゴブも射撃ができるんですか」

え? 

……言われてみればその通りだ。

なんでそんなことに気が付かなかったんだろう。

アサルトライフルの弾を魔石で作っていたら、いくら魔石があっても足りない。

だけど狙撃ライフルの弾ならどうだろう。

以前、アンチマテリアルライフル(対物ライフル)という大型の狙撃ライフルを作ろうとしたが、それにはEランクの魔石が必要だと思っていた。

だけど、弾丸を魔石で工夫すればライフル本体はEランク魔石を必要としないではないか。

クロに言われて初めて気が付いたぜ。

「クロ……お前、あったまいいいなぁ!」

「いえ……そんな」

俺がバカなだけか?

よし、ハーカーの部屋に会った素材を使ってゴブの新装備を開発だ!

「ゴブ、待ってろよ、お前に最強装備を作ってやるからな!」

「うが!」

そして新兵器が出来上がった。


鑑定

【名称】ドエム82

【種類】対物狙撃銃

【攻撃力】使用弾丸によって異なる(3240~)

【属性】無し

【備考】全長:1169㎜ 銃身長:558㎜ 重量:15.16㎏

有効射程2000メートル 最大装弾数10発+1、セミオート式。重量のある弾丸を使用するため空気抵抗や横風の抵抗を受けにくく、弾丸の速度低下が少ない。通常弾の他に徹甲弾、特殊弾丸の発射が可能。


『不死鳥の団』で最強の装備ができてしまった。

弾丸は使用する魔石の質によって破壊力が上がる。

今のところ一番破壊力があるのはGクラスの魔石を使った徹甲弾だろうか。

相手によって徹甲弾が有効だったり榴弾が有効だったりするので一概に言えない。

1発3万リム以上の弾丸もあることはメグには内緒だ。

ゴブのために俺のポケットマネーで作ることにしよう。

「ゴブ、このライフルをお前に預けるからな、明日から頑張ってくれよ」

「うが」

ゴブはやる気じゅうぶんのようだ。



 翌日の探索はゴブの独壇場だった。

ジャンを苦しめたジェイルオーガが眉間にゴブの射撃をくらい一撃で沈んだ。

6区を飛んでいた小型の翼竜(ワイバーンの亜種)も狙撃で撃ち落とした。

ゴブのレベルはうなぎ登りだ。

 先行していたスパイ君から連絡が入る。

なんと第四階層最強の地竜があらわれた。

「ゴブ……いける?」

「うが」

ボニーさんの問いかけにゴブは密林へと姿を消した。

狙撃ポイントへ向かったのだろう。

護衛としてクロも一緒だ。

やがて一発の銃弾に地竜が倒れた。

アサルトライフルの銃弾なら表面にしか傷がつかない地竜の皮も見事に貫通している。

「よくやったゴブ。戻ってこい」

俺はゴブに連絡を入れる。

「了解マスター。これより帰投きとうします」

? 

なに、今の男前の声は? 

レベルアップに伴いゴブの知力が200を超えて、喋れるようになったらしい。

その日はゴブを中心にお祭り騒ぎになった。

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