第8話 今日から俺は冒険者

 子爵家の馬車は俺を乗せて、サンガリラホテルのロータリーへと滑り込んだ。

やばい。

かなり高級そうなホテルだ。

ドアマンがツカツカと走り寄り馬車の扉を開けてくれる。

慣れてないのですごく緊張した。

「いらっしゃいませ。サンガリラホテルへお越しいただきありがとうございます」

笑顔で言いながら、すっと俺の荷物を持ってくれる。

いいのかな? 

預けちゃっていいのかな? 

盗らないよね? 

大丈夫だよね? 

俺が心配に震えていると、送ってくれた馬車の御者が大声を張り上げた。

「チェリコーク子爵家のお客様だ。失礼のないように頼むぞ!」

いや、そういうのは要らないから。

プレッシャーは俺の方にかかって来るから止めてほしい。

荷物も持たれてしまったし、今更やめますとも言えないチキンな俺はフロントへと案内された。

「お待ちしておりましたミヤタ様。パトリシア・チェリコーク様よりご連絡を受けております。本日はご利用ありがとうございます」

パトリシアって誰だろうと思ったが、パティーの正式な呼び方だとすぐに思い至った。

「お部屋は既にスーペリアルルームをご用意いたしておりますが、何泊されるかはミヤタ様とご相談するように申しつかっております」

 部屋のグレードはすでにパティーが決めてしまったようだ。

相談してほしかった。

「一泊いくらですか?」

「スーペリアルルームは1泊5万リムとなっております」

5万リム…。

余裕といえば余裕だ。

先程俺が錬成したものが全部で356万リムで売れた。

70日は宿泊できてしまう。

金貨は1枚で1万リム。

白金貨は100万リムだそうだ。

帰る直前にパティーに聞いておいた。

どうやらかなり儲かってしまったようだ。

ネピアに慣れるにも時間がかかるだろう。

とりあえず3泊分の15万リムを金貨15枚で払う。

ついでに金貨2枚分を両替してもらった。


 部屋は申し分なかった。

50㎡はある広い室内には大きなベッドとソファア、イスとテーブル、広い大理石でできた風呂もついていた。

俺は早速風呂に入ることにする。

風呂のお湯は、魔石を組み込んだ湯沸かしから流れてくるようだ。

数日ぶりに入る風呂は実に気持ちがよかった。

生活魔法で常に清潔にしてはいたが気持のよさの質が違う。

さっぱりとした俺はすぐにベッドにもぐりこみ、泥のように眠るのだった。


 朝はノックの音で目が覚めた。

ドアを開けるとパティーが立っている。

平服ではなく見慣れた鎧姿だ。

「もしかして寝てたの? さっさと出かける用意をしなさいよ」

そうだ、今日はついにギルドに登録に行く日なのだ。

俺はパティに待っていてもらい、錬成したての革鎧とスモールシールド、革の帽子と、革のマントを装備した。

武器はナイフだけを身に着けた。

汚れていない革鎧がいかにも駆け出しという感じを醸し出していたがまあいい。

腰のポーチに身体強化ポーションを忘れずにいれて出発だ。

「すまないなパティー。ギルドまでの案内までしてもらって」

「何を今更。でも私ができるのはここまでよ。これから先はイッペイ次第なんだからね」

「わかってるさ。いつかパティーのクエストに付き合えるくらい強くなってみせるよ」

「そうね……。本音を言えばイッペイには迷宮に潜って欲しくはないのよ。貴方のステータスでは地下1階だってものすごーーーーーく危険なんだからね」

「そんなに強調するなよ。自覚はしてるんだから」

パティーは怒ったように顔を背けている。

心配をかけているようだ。

「ありがとな、パティー」

「何よそれ。ふんっ」

顔を背けたままなのでパティーの表情はわからなかった。


 冒険者ギルドの建物はなかなか立派な石造りの5階建てだ。

ギルドと名乗ってはいるが運営実態は国の出先機関だ。

商業ギルドや鍛冶師ギルドなどのような組合的な団体ではない。

「じゃあイッペイ頑張るのよ」

「助かったよパティー。パティーも気をつけて」

パティーはこれから仲間と迷宮に潜り地下3階を目指すそうだ。

当然俺はついていけない。


 パティーと別れた俺は隅の方で身体強化ポーションをこっそりと飲み干してステータスを確認する。


ステータスオープン。


【名前】 宮田一平

【年齢】 27歳

【職業】 無職

【Lv】 1

【状態】 身体強化×10 (残り時間 01:59:55)

【HP】 80/80

【MP】 999997/999999

【攻撃力】30(+47) 括弧内は武器の能力

【防御力】50(+35) 括弧内は防具の能力

【体力】 40

【知力】 1480

【素早さ】50(-5)

【魔法】 生活魔法 Lv.max、回復魔法Lv.max

【スキル】料理 Lv.max  素材錬成マテリアル Lv.max  薬物錬成 Lv.max

鍛冶錬成 Lv.max  鑑定Lv.max  ゴーレム作成Lv.max  道具作成Lv.max

射撃Lv.0(命中補正+0%) 詐欺師Lv.2

【次回レベル必要経験値】 0/100000 


大丈夫、ポーションは効いている。

しかし、新しく詐欺師というスキルがついている。

昨日パティーの実家で話を盛りまくったせいか?


 ギルドの中は予想に反して人が少なかった。

必要素材の依頼は迷宮の入口に張り出されるので、冒険者でわざわざギルド会館に来る人は少ないそうだ。

フィールドでの魔物討伐の依頼なども迷宮の入口に張り出される。


 受付の男性職員の指示に従い、書類に必要事項を記入していく。

文字は地球のものとは違ったが理解でき、書くこともできた。

「それではステータスを確認しますので、右手でこのクリスタルを握ってください」

ついにこの瞬間がやってきた。

俺は覚悟を決めてクリスタルを握る。

ひんやりと硬い感触が掌に伝わった。

クリスタルには線がつながれており、線の片側は石板につながれていた。


測定結果


【HP】 80/80

【MP】 999999/999999

【攻撃力】30(+47)

【防御力】50(+35)

【体力】 40

【知力】 1480

【素早さ】50 (-5)


 職員が数値を見て絶句している。

理由はどこだろう。

【MP】の高さだろうか。

それ以外の低さだろうか。

スキルや魔法の表示はない。

よかった。

あったらもっとややこしくなっていただろう。

「結構です。適性ラインは超えています。これよりギルドカードを発行しますので少々お待ちください」

あ、この人何もなかったかのようにスルーした。

うん、さすがはお役所ギルド。

仕事もお役所的だ。

必要条件さえ満たしていれば多少変わったことがらは気にしないように心掛けているみたいだった。


 少ししてギルドカードが発行されると簡単な説明があり、三日後に開かれる初心者講習会に参加するかどうかを聞かれた。

冒険者の生還率を上げるために、ギルドが開催している冒険ツアーということだ。

現役冒険者のポーターとして地下1階層で1泊2日の探索をし、冒険者の基礎を学ぶ。

参加費用は3000リム。

右も左もわからない俺は当然参加することにした。

登録料と講習費用合わせて5000リムを支払い、ついに俺は念願の冒険者登録を済ませたのだった。

「あ、そうだ。すいません、講習の日にゴーレムを連れて行くのは可能でしょうか?」

「ゴーレムですか? どうでしょう? 何分そういうケースは稀でして…。一般的には連れてくる人はいないですね……」

「連れてきてはいけないという規則があるのでしょうか?」

「そうですねぇ。明確にそういう規則はなかったと思いますけど……」

煮え切らない態度だ。

「自分はゴーレム使いなので、講習中に迷宮での運用を試したいんです」

「そうですねぇ……。連れて行っていいかは当日に現場の教官に聞いてみてください」

あ、こいつ責任回避したな。

最後までお役所っぽい仕事をする職員だった。


 今、俺の手にはギルドカードが握られている。

第10位階冒険者 イッペイ・ミヤタ。

うん。

いい感じだ。

ついに俺は冒険者になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る