第13話 初めての戦闘

 室内にいるすべてのスライムを倒して安全を確保できたので、この部屋で休憩をとることになった。

「こういった小部屋は迷宮内での休憩に大変重宝する。ドアを封鎖しておけば魔物に奇襲されることもない。外側のドアノブにこの赤い布を巻いておけば使用中であることが他のパーティーにもわかるわけだ。お前たちも迷宮に潜るときはこういった布を用意しておくように。ゲートの横の店で100リムで売っている」

このようにしゃべるのはもっぱらクライドだ。

ロットさんはほとんどしゃべらない。

ボニーさんは全くしゃべらない。

「それでは20分の休憩だ。水分の補給をしっかりしとけ。各自用意した行動食をたべてもいいぞ」

わーい、おやつ解禁だ。

みんないそいそと自分のおやつを出している。

ナッツや乾パン、ドライフルーツが一般的なようだ。

俺はおやつの前に忘れずに身体強化ポーション(10倍)を飲み干す。

いつの間にか切れていた。

危ない危ない。

 ふと見るとメグが皆から離れてタオルで顔をこすっている。

「どうしたの?」

「あ、イッペイさん。さっきスライムを倒したときに残骸が飛んできてしまって」

そう言えば力任せにメイスでぶん殴っていたな。

ミンチ状になったスライムが飛び散っていた。

俺は生活魔法の洗浄でメグの顔と服を綺麗にしてやった。

「うわ! すごいですイッペイさん。ありがとうございます」

「これくらいどうってことないよ。さあ、おやつを食べよう」

「あ、私はまだ大丈夫ですので・・・」

元気なメグの表情が曇る。

この表情はダイエットしてるとかじゃない。

多分メグはおやつを持ってきていないな。

俺は持ってきたクッキーをメグの膝の上に置いた。

まるで四の五の言わせず飴ちゃんを押し付けるおばちゃんくらい強引に。

「食べよう。次はいつ食べられるかわからないんだから」

「あ、ありがとうございます」

そんな涙ぐみながら「美味しい…」なんて笑顔で言われたら惚れてしまうよ。

ほら、目じりにたまった涙を拭いてくれ。

それがポロっと落ちたら、俺もホロっと恋に落ちるからね。

あ、袖で拭いちゃった。

さよなら俺の恋。


「こんなに美味しいクッキー始めて食べました」

「喜んでもらえてよかったよ」

「普段はあまり甘いものは食べられないから感激です」

この世界は砂糖が高い。

メグはそれほど裕福ではないのだろう。

「いっぱい食べてエネルギーを補充してね」

「はい! これで元気いっぱいです。いつ戦うことになっても大丈夫!」

「そういえば、さっきの攻撃はすごかったね」

「えへっ。私は力自慢なんです。冒険者登録も無事済んだし、これからはバンバン稼いで家族に楽をさせてあげたいなって思ってます」

うん。

やっぱりこの娘はいい子だ。

もっとクッキーをおあがり。

休憩時間の間、ずっとメグと話をして過ごした。

どうでもいいがドライフルーツをかじるジャンはおサルさんぽかった。


 その後、大きなバッタのモンスターをロットさんが居合一閃で真っ二つにするのを見たり、ボニーとクライドがコボルトの群れを殲滅するのを見学したりして講習は進んだ。


「3人1組のパーティーを作れ」

なんの脈略もなくロットさんが突然い出した。

皆戸惑うが迷宮の中でロットさんの言葉は絶対だ。

すぐさま即席パーティーが出来上がっていく。

そして俺が一人になった。

初心者講習会に参加しているのは7人なのだ。

「よし。クライド」

ロットさん、後はクライドさんに説明させるらしい。

「ここから先はゴブリンがよく出没する区画になる。我々が適当に間引いてやるから、各パーティーで本格的な戦闘を経験してみるといい。さっきのスライムは度胸試しのようなものだ。ここからが本当の戦闘だぞ」

なるほど。

よくわかりますが、俺は一人なんです。

「パーティーごとリーダーを決めて戦略を立てろ。5分後に出発するぞ」

俺は手を上げる。

「どうしたイッペイ?」

「自分は一人なんですけど、どうすればいいでしょうか?」

そう質問した俺に対して珍しくロットさんが口を開いた。

「お前はゴーレムがいるから一人でやれ」

これはいじめですか? 

なんで俺だけ一人なんだよ。

泣きそうになるのを必死でこらえる。

震える足は回復魔法では治らない。

そりゃそうだ怪我でも病気でもないんだから。

「サポートは……してやる。しっかり……やれ」

聞きなれない女の人の声がしたと思ったらボニーさんだった。

そういえばこの人がしゃべるのを初めて聞いた。

怖い顔をしているが意外と優しい声だった。

意外な人の何気ない一言で気持ちが落ち着いてしまうから不思議だ。

戦闘はいつかは通る道。

だったらベテランのサポートがある今のうちに経験しておく方がいいに決まっている。

俺は腹をくくった。


 教官たちがゴブリンを2匹残して殲滅する。

それを新人のパーティーが受け継いで戦闘を開始した。

最初のパーティーは片手剣と盾を持った戦士と、槍の戦士が前衛、後衛に魔法使いというバランスのとれた構成だった。

前衛が2匹のゴブリンを抑えている間に、魔法使いが詠唱を開始。

タイミングをはかって魔法攻撃という定石通りの戦い方で勝利を収めた。

槍使いが左腕に浅い怪我をおったので、急遽怪我の応急処置の講義が始まる。

止血の仕方と包帯の巻き方は勉強になった。

もちろん回復魔法を使うなんて言う野暮なことはしませんでしたよ。

 次のパーティーは三人とも前衛だ。

ジャンとメグ、双剣を使う女の子という構成だった。

ジャンと双剣使いが敵を抑えている間に、メグが必殺の一撃を叩き込むという戦術をとっていた。

これがうまくはまって瞬く間に敵は倒れていった。


 骸となった魔物の額が突然ボコっと膨れ上がり、カランと石の床に音をたてて魔石が転がり出た。

「おめでとう。魔石がでたぞ。魔石はこのように自然に出てくる。取りこぼしの無い様に気をつけてな。ちなみに今回の講習会ででた魔石や素材は出口で清算して等分に分けるからそのつもりでいるように」

 この言葉に新人は皆喜んでいた。

今回出てきた魔石は最低のIランクで出口での買取価格は400リムくらいだそうだ。

「次はイッペイの番だな。準備しておけよ」

「はい。ゴブ戦闘準備だ」

「うが」

ゴブにはクロスボウの他にナイフを腰につけてやった。

「いいかゴブ。敵が射程圏内に入ったら後退しつつクロスボウを全弾斉射、その後速やかにナイフを抜いて近接戦闘に入るんだ」

「うが」

どうやら理解はしているようだ。

俺もハンドガンの安全装置を外す。ハンドガンは2丁。弾は全部で32発だ。近接戦闘に持ち込まれたらおしまいだ。弾を撃ち尽くしたら恥も外聞もなく逃げることにしよう。命あっての物種だ。逃げることが出来ればだが。


 広い回廊の端からゴブリンたちがやってきた。

ボニーが引き連れてきたようだ。

数は2体。

他の新人は三対二で戦っているのに、俺とゴブは二対二で戦わなくてはならないようだ。

俺にだけ厳しくないか? 

俺は片膝立ちの射撃体勢をとり、静かに覚悟を決める。

「はじめろ」

ロットさんの静かな声が聞こえた。

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