第75話 取引、応報


 で、お姉さまには反抗できないから、僕は質問で話題を変えて逃げる。

「横須賀海軍施設、つまり米軍は今回の件で損していないのですか?」

「するわけないじゃない。

 たぶん、薬の調合とか、相当に知らないノウハウもあったでしょうから、大喜びでしょうよ。

 今回、私もお金についてがめつくしなかったから、次のときも協力してくれるわよ」

 はー、それで今回、お姉さまは横須賀海軍施設で下にも置かぬ扱いを受けたのかい。


 お姉さまがきれいだからかと思っていたけど、それだけじゃないんだな。


「……米軍が、その麻薬の調合を分析して、悪い目的で使うことはないんですか?」

「使うでしょ」

「えっ、いいの!?」

「もうね、同じ目的の薬を開発し終わってんのよ、彼らは」

 あっ、えっ、凄いと言うか、怖いと言うか……。


「私たちの根はね、NATO北大西洋条約機構から米軍の中まで伸びているのよ。だから、軍事作戦上必要なものとして、いろいろなものを開発しているのを掴んでいるのよ。

 でもって米軍は、C.R.C.の医療技術を本気で狙っているの。

 外科的処方においては現代医学にかなわないけど、内科的治療や隠秘オカルト的治療については、いまだにC.R.C.の方が超越している部分があるから。

 そのあたりの競合関係があるから、逆に私たちは友好関係を結べているんだけどね。

 つまり、利用し合える仲、ってことよ」

「そうなんですか……」

 って、言っていることが怖すぎだよー。


 ほら、映画とかで、軍組織が裏で恐ろしい研究をしているって、よくある設定じゃん。それ、マジだったんだ。


 お姉さま、さらに話し続ける。

「でもね、同じ目的の薬がすでにあったとしても、伝統ある暗殺教団の薬が入手できれば研究はさらに進むからね。副作用とか、不可逆的な作用なのか可逆的に抑えられるものなのかとか……。

 彼らにしちゃ、喉から手か出るほど欲しかったレシピでしょうよ」

「……手に入れても、薬品の調合比まで全部同じだったりして」

 と、これは瑠奈が返した。


「だとしたら、情報漏れを疑って彼らは内部調査をするでしょうね。

 どっちにしても、彼らにしたら損な取引じゃないのよ」

 ああ、そうなんですか。

 おっかねぇな、軍事とかって。


「まぁ、ともかく、そんな感じでめでたしめでたしなのよ」

「ちょっと待って下さい。

 あと1つだけ。あの殺し屋さんはどうなりました?」

 それだけは、僕、聞いておきたい。


 罪を認識する能力も、罪を償う能力も、僕が奪ってしまった。

 自分が人殺しだって自覚があるなら、それは死刑になっても仕方ない。

 けど、今の状態だと、「夢の中で人を殺したから現実世界で死刑になった」みたいな感覚のはずなんだ。

 僕が知っている誰かを殺されたというならば、応報というか、復讐というか、そう割り切れたかもしれないけどそういうのでもないしねぇ。

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