第70話 関係、突放


 かちゃり。

 ドアが音を立てて開いた。


 僕と瑠奈、びっくりして飛び離れた。

 でも、思いっきり挙動不審だったろうな。

 瑠奈の顔はまだ涙で濡れているし、僕の顔色だってとても悪かったはずだ。


「あれっ、どうしちゃったの、2人とも……」

 ああ、お姉さま。

 問題が解決して、報告に来てくれたんだね。


 ……この際だ、聞いてしまえ。

「お姉さま、お姉さまは600歳を超えてますよね。

 C.R.C.クリスチャン・ローゼンクロイツが亡くなってから、ずっと独りで、どうやって孤独感に耐えてこれたんですか……」

 お姉さまにとっては、唐突な質問だったと思う。でもね、聞かずにいられなかったんだ。


「……なに、あんたたち、そんなんに押しつぶされていたの?

 私はね、独りじゃない。C.R.C.が、いつだって私と一緒にいる。

 だからよ。

 そもそもだけど、私自身がC.R.C.の最高傑作よ。その私の血を受け継いだルーナもね。

 元々のイベリア狼だって、群れで行動する動物だから孤独感は感じる。でもね、人間みたいに孤独感を感じるのは、私たちが最高傑作だからよ。

 作者は作品の中に宿る。

 だから、C.R.C.はいつだって私の中にいるの」

「でも、瑠奈はC.R.C.を知りません。

 知らないものを胸に宿すのは難しいです」

 僕、思わず反論していた。


「それはわかるよ。

 でも、自分が人間ではないこともわかるでしょう?

 祈っても、願っても、人間は弱い。

 科学と文明を手に入れてすらね。

 いつだって、あっという間に死んでしまう。C.R.C.ですら、死んでしまった。

 だから、私は胸の中のC.R.C.とずっと一緒に生きている。

 私が死んだら、C.R.C.も完全に死んでしまう。

 C.R.C.が悲しい顔にならないよう、いつもの優しい顔でいてくれるように生きている」

 お姉さまは、そこで言葉を切って瑠奈の目を覗き込んだ。


「でもね、ルーナ。

 あなたが羨ましい。

 ヨシフミと喧嘩ができるからね。

 昔、C.R.C.は私を叱ることはあっても、喧嘩にはならなかった。レベルが違いすぎたからね。

 でも、私、600年以上も生きて、今ならばC.R.C.と喧嘩できると思う。でも、私の胸の中のC.R.C.とは喧嘩ができないのよ。

 私は孤独ではないけど、それ以上ではない。今の関係以上に、C.R.C.との仲を進展させることはできない。

 それに比べたら、今のルーナはとても幸せなんだよ。

 ヨシフミは、ルーナより長生き。

 だから、たとえこの先、ヨシフミと憎み合う関係になったとしても、関係が変わっていくという、それ自体が幸せなこと」

 ……そうか。何百年も生きる者同士のお付き合いって、そういうものなのか。


「お姉さま、じゃあ僕は、僕はどうしたら……」

「アンタのことなんか知らない。

 ヨシフミはヨシフミで勝手に考えればいいじゃん」

「……酷い」

「可愛い孫とアンタは比べられないし、そもそもアンタ、私たちよりも桁違いに長生きする別種族じゃん。

 ルーナが死んだあとのことなんて知らないよ」

 酷いよ、酷すぎるよ、お姉さま。

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