第69話 孤独、永遠


 ひとしきり、泣いている瑠奈を抱えていたけど、思い出してみたら人間に化けているのがバレるんじゃないかってくらい、尻っぽは誇示していたよね。

 中学の時のお化け屋敷のときも、付け尻っぽのふりして、生身の尻っぽを振り回していたし。


 ううーん、考えてみたら僕、当然のことだけど瑠奈の寝姿を知らない。

 でも、もしかしたら、自分の尻っぽにくるまって寝ているとか……。


 あ……。

 もしかして今僕の頭に浮かんだ想像が正しかったら、瑠奈、あまりに淋しい生き方をしてきたことになるなぁ。

 犬とか、きっと狼もだけど、自分の尻っぽに依存するって聞いたことがある。

 淋しくて仕方ないと、自分の尻っぽを追いかけ回して1日を潰す、みたいな。

 寒かったり淋しかったりしたら、尻っぽにくるまって、鼻先をそこの毛にうずめて寝るんだってのも。


 瑠奈、お父さんが亡くなったあとはずっと独りだったんだよね。

 大規模農家で、最後は、いや今もだけど、社長までをやっていて、でも瑠奈の本当の姿を知っている人は誰もいなかった。

 今でこそお姉さまと僕は知っているけど、それも奇跡みたいなもんだしね。


 ということは、おそらくは200年、73,000日もの淋しくて淋しくて仕方ない日々を過ごしてきたんだろう。

 そんな日々の中で、瑠奈を裏切らなかったのはただ、その尻っぽだけだったんじゃないだろうか。


 そして200年依存してきた、夜寝る時に安心して顔を埋める先だったものがなくなったら、その喪失感は恐ろしいものだと思う。

 同時に僕、それ以上に恐ろしいことに気がついた。

 瑠奈のこと、可哀想なんて思っている余裕は、実は僕にもない。僕自身だって2000年後、瑠奈が年老いて死んでしまったら、そこから先は何万年も独りきりで過ごすことになるかもしれない。


 僕には尻っぽすらない。

 そんな僕が、正気を保っていられるんだろうか。

 急に、怖くて怖くて仕方がなくなって、淋しくて淋しくて仕方がなくなって。


 僕、瑠奈のことをぎゅーっと抱きしめていた。


「ヨシフミ、痛い」

 胸の中で小さな瑠奈に小さくささやかれて、僕、腕の力を緩める。

 瑠奈は華奢だけど、正体が正体だから結構丈夫。

 でも、僕の力もまた実はとんでもないからね。痛くしちゃったかな。


「ごめん。

 だけど、瑠奈、尻っぽがなくなっても、大丈夫。

 僕がいるから、だから……」

 これ、「君のことは僕が守る」っていう意味で言えたらカッコよかったんだけどね。でも、実は、僕自身も震え上がるほど怖くて怖くて、「瑠奈、ずっと僕と一緒にいて」って続けて言うつもりだったんだ。


 でも、それを言う前に……。

「ヨシフミ、本当にずっと一緒にいてくれる?」

 って瑠奈が言う方が先だった。


 僕、震える瑠奈を抱きしめて、

「うん」

 って答えたんだ。

 僕も、震えていた。



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