第7話 父さん、軽蔑しないで欲しい
「父さん……。
僕が父さんの寿命を伸ばしたら、リリスは契約違反を責めるよね。
その際に、父さんはどうなるの?」
「俺にはどうこうはないだろうな。
どうせ、いつかは死ぬんだ。リリスは俺が死んでからゆっくりと掴まえて、好き放題にすればいい。勝負は始めっから見えているんだよ。死なない人間なんかいないからな。
問題は、美子だ。
魂を奪われることになるだろうな。俺のものならくれてやなるけど、あいつのはダメだ。あいつのは奪わせるわけにはいかない」
……そんなことだろーと思ったよ。
基本的に、人外との契約ってのはけっこうエゲツナクできてる。
ゴムチューブという障壁を超えて強制力を持たせるために、かなりえげつないことにもなっているんだ。
大抵の場合、身一つで逃げられないように、最愛の保証人を差し出すことが必要だ。
人ってば、結構簡単に自殺したりもする。だから、本人を責めるのは限界がある。
でも、最愛の人が苦しんでいるのを平気で見ていられる人は少ないし、それは逃げられない。だから、本人ではなく、その人の恋人や家族なんかを拷問にかけてじっくり見せつける。
それができるようになっているんだ。
だから、契約は裏切られない。
繰り返しになるけど……。
基本的にゴムチューブの外の存在だって、中に用がある。
だから、そういうタイミングでWin-Winの契約を結べれば失うものはほぼない。うっかりすればプラスにだってなる。
でも、父さんはそういう間を待てなかった。
だから、不利な契約を結んで従容として流れに身を任せて、契約の遂行を待っている。
しかも、これ、父さんは母さんに全部秘密にしているはずだ。
その意思を無駄にはできない。
母さんはどこまでも、知らないって状態でいてもらわないとだ。
僕に……、真祖のヴァンパイアである僕に、できることは本当にないんだろうか?
諦めるしかないんだろうか?
いや、本当はね、手があるのは知っている。
父さんと母さんのもう少しの寿命に換算できるエネルギーと、生命が解放されるだけのエネルギー放出を代替えできればいい。
たぶん、4、5人分の生命が奪えるならば……。
そうだ、こないだの殺し屋集団の生命を使わせてもらえば……。
そこまで考えて、僕は自分自身にぞっとした。
こんなこと、考えちゃいけない。
そもそもだけど、この問題で最大の受益者にもなる父さんに提案したら、間違いなく僕を軽蔑する。
わかっているよ、父さん。
父さんは、ただ僕に知っていて欲しかったんだ。
ただそれだけで、僕に救って欲しいなんてことは微塵も思っていない。
母さんの寿命を伸ばし、共に生きられただけで満足しているんだ。その満足だけを、早く両親がいなくなってしまうことへの謝罪とともに僕に伝えたかったんだ。
……僕は無力だ。
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