第6話 父さん、取り返しがつかないよ


 ゴムチューブの外にはいろいろな存在がいる。

 神も、悪魔も、それ以外も、だ。

 悪魔ってのは、悪質な高利貸しだ。

 でも、高利貸しだからこそ、取引ができる。


 神様は、あてにならない、

 トータルでは、神様の方が救いの量自体は多いんだろう。

 でも、「彼女の魂は救ったからいいだろ?」という神様の言い分に満足できなかったら、そして、こういう具体的な契約だったら……。悪魔のほうがマシなんだ。


 そもそもだけど、神様ってのは、ゴムチューブの外の魂の管理人。

 適切に生命のエネルギーをゴムチューブから出し入れしている存在。

 その存在に、「ゴムチューブから出さないで」って言ったって、聞いてくれるはずがない。出し入れしてこそゴムチューブは存続できて、正しい位置に伸び続けているんだから。


 僕も、父さんのゴムチューブ・モデルの話を聞いた今ならわかる。

 僕は、ゴムチューブそのものの位置にいる存在だ。ヴァンパイア・ウイルスも、その安定化に役立っている。だから、僕に時間は流れない。だから、僕は永遠に生きる。

 


 そか。

 怪力があるわけだ、僕。

 ゴムチューブの中だったら物理法則に縛られるけど、僕は中にいないからね。


 そして、僕は、悪魔と取引をしていない。

 僕自身、「早くヴァンパイアになりたいな」とは思っていたけど、切実なものじゃなかったから、かなり成り行き次第だったんだ。

 だから、いろいろな儀式にもトライしたけど、それの意味も今なら明確にわかる。

 ゴムチューブの外にいる、人間に無関心な存在がゴムチューブに出入りするときに便乗してぶら下がって、チューブの上で降りるということだったんだ。



 ああ、人の命がエネルギーで、ゴムチューブ本体に影響しうるということ。これも理解できた。これを薔薇十字団は、生気プネウマって言葉で認識しているんだ。


 そして、薔薇十字団に受け継がれているダマスカス文様の短剣、あれは60,000人もの人間の生気プネウマが練り合わされて作られているんだった。

 あれは、ゴムチューブに穴を開けられるんだよ。

 そして、笙香の例で言えば、笙香の内臓の1つをゴムチューブ上の僕がいるのと同じ位置に置いたんだ。


 僕が、容姿だけ歳を取れるようになったのも同じ。

 あの短剣で、僕の体をゴムチューブの内側にずらしたんだ。


 ああ、父さんの考えたモデルだと、すべての説明がつく。

 それなのに、父さん、すべてを理解わかっていながら、母さんのために死ぬ覚悟をしちゃったんだ。いや、死ぬじゃない、もっと酷い。

 魂までを失う覚悟をしたんだよ。2度と転生もできない、救いのない世界だ。チューブの中にはもう戻れない。チューブの外で、リリスに生気プネウマだけを吸われて、最後は消えて無くなって終わるんだ。


 ああ、なんてこった。

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