第5話 父さん、悪魔と契約する


 僕にも、時空に対する認識はある。

 父さんの組み立てた、ゴムチューブのモデルほど適切ではないけど。

 でも、ゴムチューブのモデルで考えると、すごくいろいろがわかりやすい。


 隠された叡智とも言うべき本物のオカルトってね、このゴムチューブの外との交流なんだ。

 神様がいるのも、悪魔がいるのも、天国も地獄も、ゴムチューブの外。

 たまーに、ゴムチューブの外と内に出入りがあって、それが異常な現象として認識される。

 だから、ゴムチューブから外へ出られないオカルトは、似非で詐欺だったりするものが多いんだ。


 でも、UFOとされているものの一部とか、召喚とか、そういうものは出入りしている。

 ひょっとすると、異星人のワープ航法ってのも、一旦ゴムチューブの外に出るのかもしれないね。

 でもって、UFOが真っすぐ飛ばないのもこれ。

 ゴムチューブ基準では真っすぐ飛んでるのに、ゴムチューブの中からの視点でその中のものしか見えない目では、真っすぐに見えないんだ。

 ほら、メルカトル図法の地図に、最短距離での動線を描くと線が曲がっちゃうだろ?

 それと同じ。

 存在階梯が違うと、こういうことが起きるんだ。


 そんなことをつらつら考えていたら、衝撃が襲ってきた。

 えっ!?

 ああっ!

 今、気がついた。

 じゃあ、さっき父さんと話したことだけど、「僕が父さんの血を吸って、永遠の命を与えたら」「そんなことしたら、大変なことが起きる」ってことは……。


「父さんっ!

 アンタ、取引したなっ!?」

「さすがはヴァンパイア。

 ヨシフミ、お前はヴァンパイアになるとき、どうしたんだ?

 お前も取引したのか?

 それとも……」

「父さん、僕は、『それとも……』の方だよ」

 僕の返事に、父さん、ベッドの中に埋まっちゃって見えるほど小さくなった。

 なんか、安心しきっちゃった感じ。


「よかった。

 安心したよ。

 俺は、リリスに手数料を払って手続きしたからな。その契約を覆すようなことはできないんだ」

「なんで?

 なんでだよ?

 父さんなら、そんな方法を取らなくても同じことができたはずだろう!?」

「時間がなかったんだ。

 美子が死ぬ日まで1年を切っていた。

 他の方法だと間に合わなかった」


 父さんにとって、母さんはそこまで大切な人だったんだ。

 でも、だからって、ここまでの方法を取るだなんて。


「……父さん。

 そこまでの大物に手を借りたとなると、手数料は寿命の10年じゃ支払いが足らないだろ。

 やっぱり、魂も、かい?

 だから、永遠に生きることはできないんだろ?」

「そうだ。

 だから、俺は次か次の次の発作で確実に逝くことになる。命数は尽きているんだ。

 それがわかっていたから、俺は生き急いだ。

 大学卒業して、就職すると同時に結婚式を挙げて、ヨシフミ、お前を作ったんだ。

 俺と美子が生きた証にな。

 まさか、その証が永年保証になるとは思わなかったけどな……」

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