第20話 現代医学に貢献するヴァンパイア
教授の回答はシンプルだった。
「オカルトの研究はできない。
でも、オカルトを僕の土俵に引っ張り上げることはできる」
えっ、どういうことだろう?
「ヨシフミ君の持つ因子が、化学的に分析できるのであれば、再合成も可能だ。この時点で、僕の土俵なんだよ。
構造式を見れば、どんな働きをするか想像も付くしね。
その再合成した物質の研究は、誰にも非難されずに研究できる。これはもう化学の産物で、オカルトじゃないからね。
さらに大本の因子の起源を聞かれたら、効きそうに思えたから合成した、でも、特異体質の患者から得たでも、事は済む。さらに言えば、過去の文献をひっくり返せば、誰かしらが似たような物質の検討をしているだろう。
それに、結果さえ良ければ、そんなこと、誰もツッコまない。
結果が不安定だと、必ず研究過程の洗い直しで突かれるけどね。
でも、僕が間に合わなくても、僕の学生たちが完璧な治療方法を確立してくれるよ」
……そうですか。
すごく体系的にできているんですね。
それで済むならいいんじゃないかな。誰かの役に立つこと自体は、僕だって嬉しい。
教授は続ける。
「さらに、君たちの言うこの因子が他の臓器に広がらないための力場の設定についても、この因子の構造を詳しく解析することで、不要になるかもしれない。
逆に僕の力不足で、なにも結果を生み出せないかもしれない。
でもね、この病気で苦しみながら亡くなっていく患者を救うヒントが得られるだけでも、基礎研究医としてはとても嬉しいんだよ。
このとおりだ。
僕に、サンプルを分けてください」
「いいですよ。
持っていってください」
僕、快諾。
体育祭のかけっこよりも困っている人を助けられるんだから、断るなんてとんでもないよ。
ただ、フリッツさんが付け足した。
「教授、サンプルは貴重ですから、厳重な管理をお願いします。
これから、ヨシフミくんに対しては、重大な実験が予定されています。
もしかしたら、同じ因子は二度と手に入らないかもしれません」
「えっ、そうなのか?」
教授、焦った感じで聞き返してくる。
「ええ、背を伸ばしてもらうんです」
僕の答えに、教授はすべてを理解したみたいだった。
「じゃあ、ヨシフミくん、今ここで、もう少し君の牙からの因子を出したまえ。
今残っている倍も出してくれれば、それで僕は満足しよう」
「そう言われましても……。
ヴァンパイアになってからは、梅干しを見ても、ツバなんて出ないんです」
「つべこべ言ってないで、さっさと出しなさい」
さっさと出せって……。
なんで急にこの人、急に偉そうになっちゃったんだろ?
医学部の教授ってのが、もともと偉い人なのは知っているけどさー。
なんか、スネークセンターで、毒を採取される毒蛇みたいな気分になってきたな。
僕はヴァンパイアだぞ。毒蛇より大切にしろーっ。
すったもんだして、それでも教授にサンプルを渡して、「これっぽっちか?」って、非難されて。
なんで?
僕、悪くないよね?
努力したよ、僕。
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