第9話 ヴァンパイアの初めてのぎゅう
すげーな、
さすがは獣と呼ばれるだけはある。
深夜、待ち合わせで合流したあと、僕たちは荒川の家なんか知らなかったけど、瑠奈が学校から足跡のニオイをたどって、なんなく割り出しちまった。
そか、体育館裏で、僕がいるのに気がつくわけだ。
そして、瑠奈、僕の顔を見上げて言う。
「次はアンタの番。
身体を霧にして、この家に入り込むの。
で、アイツの部屋を家探しして」
えーっと、潜入というか、不法侵入は僕の役割でしょうか?
「瑠奈さんは?」
「身体を霧にしたあと、私も連れていける?」
えっ、僕、そんなことできるのかな?
僕の戸惑った顔に頓着しないで、瑠奈、言葉を続ける。
「荒川んち、お金持ちみたいだね。
警備会社と契約しているみたい。
監視カメラがあるとして、絶対撮られるわけにいかないから、やっぱりまずは霧のままでの偵察が必要だよー」
うん、SEC◯Mのプレートが見えるからね。防犯カメラに写らないようにできるのは、ヴァンパイアの特権だよ。
さて、自分以外も霧にできるのか、チャレンジしてみようか。
って……。
霧化は、自分の身体をというより、自分の体を周囲のフィールドごと霧にしているんだよね。
だから、コウモリに化けたときは服は置き去りになってしまったけど、霧のときは全裸にならなくて済むのはそういうことなんだ。服を含めた周囲を霧にしているんだよね。
ということは、僕のフィールドにいれば、瑠奈も霧にできるということだ。
で……。
近い、近い、近い……。
霧化の有効範囲は、僕の身体から20cm、遠くても30cm以内。
その範囲にいようとすれば、瑠奈と僕、ほとんどハグの状態。
いや、ほとんどじゃなく、完全にだ。
やっぱり、シャワー浴びてきてよかったな。
瑠奈の髪が、僕の顔の下半分をくすぐる。
正体は獣のはずなのに、洗い髪の香りで僕の頭の中、くらくらと爆発しそう。もう、産まれてきてから初めてだからね、こんな近距離に異性がいるのは。
「ほぇ!」とか、思わず変な声が出ちゃったよ。
そうしたら、下からくわっと瑠奈がにらみあげてきて、僕、怖かったからそのまますかさず霧になった。
本当ならば瑠奈を抱きしめて、そのままの流れで首筋に牙を立てたってよかったのに、なんでこうなった?
さて、荒川の自宅に入り込もうとして……。
案外、苦労することになった。
秋も深まる季節だからね。窓は全て閉まっている。
そして、この家、高気密断熱住宅ってヤツみたい。隙間がねーんだよ。
結局、霧の状態でうろうろして、ようやく外壁に換気扇を見つけた。
あとは、換気扇に身を任せれば家の中に吸い込まれる。
そよそよっていうより、ぐいーっと引っ張られて、次の瞬間にはもう家の中。
霧化していても、感覚としては僕、瑠奈をぎゅうって抱きしめ続けている。
霧から実体に戻るつもりはない。
だって、霧でいれば足音させる心配もないし、鍵がかかった引き出しの中だって見ることができる。実体化したらそういうわけには行かないからね。
瑠奈がなんか焦っているけど、今の状態であれば瑠奈は僕に反抗できない。
思いっきり、ぎゅうて抱きしめ続けてしまう。とは言え霧状態だから、それ以上のこと、ぷりぷりかぼいんぼいんかとかはわからないけど。
それでも、役得だーっ!
って、これ、セクハラ?
いや、必然性ならあるぞっ。
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