第28話 雉島、渡海
「ま、ヨシフミ、そんなに心配はいらない。
すぐに追いかけてくるわよ、すぐにね」
まぁ、お姉さまの言うことは正しいと思う。
放っておけるもんじゃないからね。銃火器も麻薬も、恐ろしく価格が高そうだし。人員だって、ぺらぺら喋られたら困るだろう。
「で、どこへ行くの?」
と、これは瑠奈の質問。
「守りが固められて、見晴らしがいいところ。
ヨシフミ、どこか知らない?」
って、丸投げですか、お姉さま。
でもね、実は心当たりがある。
というのは、真祖のヴァンパイアになった以上、安心して昼間寝ていられるお城が欲しかったんだよ。
で、日本で現実的なお城って、無人島かなって夢想していた。
ほら、僕、食べ物も飲み物もいらないからさ、冷蔵庫もいらないから、電気もいらないってことでね。中世ゴシックロマンの世界で、ろうそくの照明で生活できるんだよ。本当は夜目が利くから、ろうそくもいらないんだけど、そこはほら、雰囲気重視ということで。
ついでに言えば、僕はコウモリになれば空を飛べるから、船もいらない。
でもって、旧日本軍が穴を掘り巡らせた島もあるらしくて、まぁ、ちょっと雰囲気はアレだろうけど地下室もあるじゃんって大興奮したんだ。
……無人島の値段を見るまではね。
とてもじゃないけど、高くて買えないんだ。
で、東京湾からその出口近辺にも地方公共団体の所有とか、個人所有の無人島、あるんだ。私有地は入り込んじゃいけないんだけど、地方公共団体の所有のものは観光地になってたりする。
でもって今、ちょうど三浦半島にいるわけだから……。
「雉島なら……」
って、提案したよ。
そこなら、海が障壁になってくれる。見張り台がある。そして、旧日本軍のレンガの倉庫もある。
つまり、捕虜と銃火器と麻薬をしまっておける。
おまけにね、昼間観光地なんで、その時間帯の襲撃は心配しなくて済む。そして、夜は誰もいなくなる。
これはいいぞー。
夜こそ僕の世界だからね。お姉さまと瑠奈だって、その嗅覚からして夜の方が強いはずだ。
敵が攻めてくるのを、その夜に限定できるのはすごくありがたい。
と、そんなことを話したら、お姉さま、車を運転している人に、口の固い船長の船をチャーターできないかって。
うーむ、便利屋さんかな、この人。
でもって、その人が携帯を取り出して交渉してくれて、あっさりと船が出ることになった。
そして……。
なんでそうなるのかわからないけど、僕たちを乗せたり載せたりした車は、横須賀海軍施設の正門をくぐった。
って、ここ、在日米軍だよね!?
一体全体、どんな伝手があったら、こんなところに入れるんだ!?
僕、怖かったから、すぐに霧になって隠れちゃったよ。
20分後、なんか左胸にいっぱいのパッチワークを付けた人が現れて、お姉さまを下にも置かない扱いをした。うっかりすると、跪いて手にキスをしそうな勢いだった。
でもって、さらに数分後、全員でランチに乗って島に向かって走り出していたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます