第29話 探検、籠城
島に着くと、ランチは引き返していった。
お姉さまがどういう話にしたのかはわからないけど、運転手してくれていた男の人も島に残ってくれた。
同時に、長かった夜も明けだし、空が白まり出していく。
急がなくちゃならない。
9時半を過ぎたら観光客がやってくる。それまでに隠れないといけないし……。
でも、探検は一瞬で済んだ。幅100mあるかないかの狭い島だからね。僕が霧化して本気になれば、隅々まで一瞬に調べ上げられるよ。
ついでにと言っちゃ良くないだろうけど、お姉さまも走った。やっぱり、島の状況を自分の目で見ておきたいって一周してきたんだ。でも、それも5分と掛からない。
たぶん、磯でも森の中でも、時速60kmを切らずに走り抜いたんだろうね。さすがだよ。
瑠奈は合流してから、ジェヴォーダンの獣のくせに、借りてきた猫のようにおとなしい。一体全体、どうしたんだろうね。
ともかく、探検を済ませたけど、地下の状況は僕だけがわかっているんだ。
レンガの倉庫なり要塞なり、僕だけが中まで入り込めたからね。
で……。
立入禁止と書かれた看板がくくりつけられた柵が入り口が塞いでいるレンガ積みの空間の奥にドアがあって、予想外と言うか予想どおりというか、とてもいい空間を見つけた。
明らかに周囲の施設とは違和感に満ちていて、なんか会議室みたいな部屋。
……まぁ、そりゃそうだよね。
アメリカ軍が接収していた時期に、手を加えられていないわけがないよね。
電気も点くし、小さいけどトイレもある。おまけに、蛇口があるのには驚いたよ。だって、ここ、表向きにはインフラはない島だったよね。
でもって、おそらくだけど、ということでお姉さまが説明してくれた。
アメリカ軍が設置したものだから、水も電気も供給元がそのまんまアメリカ軍基地からだろうって。
つまり日本のものじゃないから、公式には存在しないということになるんだろうって。
じゃあ、使っちゃっていいのかなって聞いたら、お姉さまが頷いて言う。
「1日や2日、私たちがここで電気と水を使ったくらいでアメリカ軍は傾かないよ」
だってさ。
まぁ、たしかに。
絶対傾かないだろうなぁ。……傾いたら面白いけど。
捕虜、全員を連れて、移動したよ。
で、最初の立入禁止と書かれた看板がくくりつけられた柵は、僕が抱きついて霧化した。で、全員を運び込んでから実体化。
なんの痕跡も残さずに、入り込めた。
この能力便利だなぁ。我ながら、こんな使い方は想定していなかったよ。
で、また捕虜たちがおしっこ漏らされたりするの嫌だからね。一番最初にトイレと水の確認をした。
水はきちんと出たけど、お姉さまに言われてしばらく出しっぱなしにした。きっと、海底を通ってくるんだろうけど、何年も水道管の中で動かないでいた可能性のある水だからね。
トイレも大丈夫。
食い物は……。
辛抱してもらえばいいや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます