第27話 逃走、挑発
「さ、全員連れて、どこまでも逃げるよっ!」
って、これがお姉さまの第一声。
2tトラックのダブルキャブって奴らしくて、僕たちは荷台で転げまわなくて済んだ。
ついでに、銃火器と麻薬も座席側に積んでいる。
それはいいけど、これから先はどうするんだろう。
高校、休みは今日までだぞ。
で、それをお姉さまに思い出してもらって、単位が足らないと進級できなくなるって言ったら、「ヴァンパイアと単位って……」とか呟きながら頭を抱えられちゃったよ。
しょーがないだろー、僕は、中2でヴァンパイアになって、まだまだ高校の生徒。つまり、未成年なんだから。
これで大学行って、学生になればもう少し自由になるんだけど。
おまけに、家には父さんと母さんが僕の帰りを待っている。
だから、何日も外泊はできないんだよね。
「どういう作戦なんですか?」
僕、どこかで協力できるポイントがあるかも知れないから聞いてみたよ。
瑠奈は無言で聞いている。
「作戦の第一段階は、とにかく逃げて逃げて逃げまくる」
はあ。
それは大変だ。
「じゃ、置き手紙には……?」
「Catch As Catch Can.」
「捕まえられるものなら捕まえてみろ、ですか」
「そうよ」
「逃げていてもなにも始まらないんじゃ?」
「逃げることに意味があるのよ」
うむ、まったくわからん。
「じゃあヒントを出してあげま……」
「わかりましたっ!」
ああ、なるほど。
答えが頭の中に降ってきた。
「ここで縛り上げられている人たちの、集団持ち逃げ脱走に見せかけるのですね。
で、持ち逃げされた麻薬を餌にして、敵の組織を釣り上げる。
しかも関わっている組織は複数だろうから、同士討ちをさせる」
「ご名答。
そのとおり。
逃げている期間が長いほど、釣り上げられる獲物が増える。
でもって、それらみんな同士討ちで戦力を削る」
うん。
でも、お姉さまの考え、それだけじゃない。
「それだけじゃなく、参戦してくる組織の状況を観察すると、最初に僕たちと手を結んだ互助結社組織の嘘も見抜けますね」
「そう、ヨシフミ、それも正解。
欲と愚かさは、連れだってやって来るのよ」
うーむ、さらっと怖いことを言うなぁ。
僕も気をつけなきゃ。
「ただ……。
一番最後はどうするんですか?
ここに捕らえた人たちも、同士討ちに巻き込んで全員殺すんですか?」
僕、おそるおそる聞いたよ。
自業自得で、僕と関係ないところで殺し合いをしてもらうのは構わない。
極端な話、どこか他の星で5本足と9本足の間で戦争が起きてるって聞いても、ふーんとしか言いようがない。
でもさぁ、僕が洗脳して殺し合いをさせたってなると、それは後味悪すぎ。
「逃げる。
時間を稼ぐ。
その中で薬が切れてまともになったら、それはそれでいいじゃない。
それがダメだったら、まとめて銃火器ごとどこかの交番にでも置いてこよう」
僕が嫌がっているのを察したのか、お姉さま、穏健策を出してくれた。
たださぁ……。
「せめて警察署にしてください。
交番じゃ、そこのおまわりさんが可哀想です」
「えっ、交番と警察署って、違うの?」
くっ、お姉さまのいたスペインやドイツに交番はないんかいっ!?
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