第22話 秘密を明かされるヴァンパイア


「ヨシフミ、アンタわかってない。

『C.R.C.の残した知識の管理と保存』が、お祖母ちゃんの言うとおり、『平和なもん』なわけないでしょっ」

 えっ、そうなの?


「知識は常に盗まれる危険がある。いつだって、戦っているはずなのは、自明のことじゃん。

 そもそも、ヨシフミ、『C.R.C.の残した知識の管理と保存』をしている場所が、日本じゃないことはわかっているよね?」

 と瑠奈るいな

 ……ええ、まぁ。

 でも、戦っているって……。


「やっぱり、C.R.C.のいたドイツで、なんでしょ?」

 僕、確認してみる。

「ほら、そうやって思い込んでる。

 そもそも、人影の濃すぎるヨーロッパじゃ、秘密の保持は無理。

 今は、すべてをアメリカ合衆国に移している」

 えっ、でも、それだと話のつじつまが合わないよね。


 僕の顔を見て、疑問に感じていることをお姉さまは察したらしい。

 ゆっくりとソファに座り直すと、僕に説明をしてくれた。

「まずね、ヨシフミ、私、アンタを短い時間だけど見てきた。信用に値するかどうかをね。

 アンタは、ヴァンパイアとは言え常識人だね。

 だから普通に良心もあるし、節義もある。

 だから話すよ」

 僕、頷く。


「フリッツはC.R.C.の血縁なのでドイツに残っています。

 C.R.C.のお墓も移転できないので、そのままです。カタコンベの一角に接続されて、公然と保管されています。

 でもね、書籍の形のデータはそういうわけにいかない。そのままにしておくといろんな意味で危険だし、団の人員が一番多い場所に置いておくべきって話にもなる」

「データ化は?」

 僕、反射的に聞いた。

 だって、データ化しておけば、コピーも楽だし、持ち歩きも楽なはず。


「無理。

 C.R.C.が本に記しているのは、書かれた文字や図だけじゃない。

 匂いや羊皮紙の紙質までもが意味を持っている。

 五感のすべてで理解するようになっているのよ。

 本来の知識って、そういうものでしょう?」

 うっわ、考えたこともなかったよ、そんなの。

 それじゃ、その本を読むしかないっての納得。一度は見てみたいなぁ。


「それらの本って、アメリカのどこにあるんですか?

 あ、僕が聞く資格がないなら、別にいいんですけど……」

 僕の口から出た質問に、お姉さまは妖艶に笑った。

 うん、初めて使ったぞ、この単語。でも、文字どおり、妖艶で、目が離せなくなっちゃう。


「マサチューセッツ州アーカム」

「えっ、セイレムでしょ?」

 僕、思わずツッコむ。

 アーカムという街は、『クトゥルー神話』に出てくるの街だ。その街のモデルは、実在の街、セイレムだと言われている。

 僕だって、ヴァンパイアになるときに、オカルト知識について相当に調べたからね。現実と虚構の区別はついているよ。


「アーカムにある、ミスカトニック大学の図書館。

 そこが、C.R.C.の知識を保存している場所」

「冗談でしょうか?」

 僕、口調が変わってしまう。

 いくらなんでも、あんまりオチョクられる筋合いはないもんね。

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