第21話 ヴァンパイアの可怪しくなっていく経済感覚


 長い夜が明けつつある。


 東の空が、きれいな紫色になった。あの色を見ていると、未来はけっして悪くない、そんな気がしてくるよね。

 とはいえ、人ならざるヴァンパイアだから、明け方は一番眠いんだけれど。



 でもって、「笙香しょうかを絶対安静のまま運ばなきゃ」って話になったから、僕が抱いて霧化して運ぶ? って提案したら、瑠奈るいなのほっぺたが膨らんだ。


 瑠奈のほっぺたが膨らむと、僕のほっぺたが地面にこすりつけさせられることは学習したからね。それは嫌だから、僕はそのまま口をつぐんだよ。

 もしかして、瑠奈の真空飛び膝蹴りは、ヤキモチなのかな?

 そうだとしたら、嬉しいじゃないかぁーっっ!



 お姉さまが、ちろんって僕と瑠奈を見てから、普通にタクシーを呼んで瑠奈の家に帰ったよ。

 3回目に入る、瑠奈の家。

 で、広い部屋でも、5人もの人がいるとそれなりの人口密度になるね。笙香は床に敷いたマットの上に寝かせたけど、ってか、笙香、元気いっぱいに寝相が悪い。だから、必要以上に面積を占領している。

 絶対安静とは? って僕は聞きたいよ。

 いくら気を使っていても、患者自身が自分でごろごろ転がっていくんだもん。


 ともかく、笙香以外はソファに落ち着いた。

 そしてまずは、瑠奈が小切手を切って、フリッツさんに渡した。

 ちらっと見たけど、1000万円って凄くない?

 お金ってのはあるところにはあるんだなー。

 あと、自分の分身を作るのにも、それに相当する金額が必要ってことだろうから、僕、お金貯めなきゃだ。

 いや、貯める前に、稼がなきゃ、かな?



 そんなこと、薄らぼんやり考えていたら、瑠奈から律儀にツッコミが入った。

「ヨシフミ、アンタの考えていることがわかるけど、分身作るなら1億を覚悟しときなよ。

 今回は、ヨシフミの身体で実験するのと、人の命を新しい方法で救う新たな試みなのと、この2つのことで相殺されての額なんだからね。それを忘れちゃだめだよ」

 ……そう言われても、億なんて単位、僕にはぴんとこないんですけど。


「それとも、ウチの団の専属ヴァンパイアになる?

 タダになるし、可愛がってあげるよ」

 と、これはお姉さま。

 うっわー、背中がぞくぞくするよー。

 

 ここで嬉しそうな素振りをしちゃったりすると、やっぱり瑠奈が怒るだろうから、僕、難しい顔をする。

 本当は、「一億円がただになるなら凄くラッキー」なんて思っちゃってたんだけどね。一億円だぞ、一億円。

 小さな声で付け足すけど、お姉さまに可愛がってもらうことにも興味あるし。


 僕、聞いてみた。

「専属になると、どんなことするんですか?」

「困っている人を助ける慈善活動と、お墓の管理。

 それからC.R.C.の残した知識の管理と保存。

 平和なもんよ」

 と、お姉さま。


「ちょっといいかも……」

 僕、つい、そんな言葉が口からこぼれちゃったよ。


「ヨ・シ・フ・ミー」

 あ、すごい声。

 瑠奈、怒ったかな?

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