第23話 将来設計を迫られるヴァンパイア


「事実よ」

 お姉さまの答えは短い。

「でも……」

「ヨシフミの言うとおり、セイレムの表の顔は、かつて魔女裁判があったことを売りにしている街」

 お姉さま、僕の言葉にかぶせて来た。


「どんな物事にも表と裏があるように、セイレムにも、表の歴史と裏の歴史がある。

 セイレムの裏の顔はね、複数の隠された結社が資本を出し合って教育機関を設けた街。ミスカトニック大学は、表に出ない形で実在しているのよ。

 クトゥルー神話を書いたラヴクラフトは、ファンとの文通が多い作家だった。そして、ミスカトニック大学の関係した誰かが、彼に情報を漏らしたのね。

 ラヴクラフトがそれを自らの著作に取り入れたことから、表と裏が混じり合ってしまった」

 え、マジなん?

 僕が中学生だからって、ナメられて嘘を言われているわけじゃないんだ。


 お姉さま、続ける。

「虚構は虚構として。

 現実には、セイラムの裏の顔は私たちの街。

 我が薔薇十字団の意味は、東洋の薔薇と西洋の十字の融合。だから、江戸時代の日本に対して、13回もの調査船をセイレムから出しているのよ。そして、その中には、エンペラー・オブ・ジャパン号なんて船までもあったの。

 そして、裏のセイレムに関わっている者たちは、このセイレムの街をアーカムと呼んでいる。表と裏、それぞれの歴史を語るときに混同しないようにね」

 あ、なるほど。

 歴史を肌で知っている人はすごいなぁ。


「日本の大森貝塚の発見者、エドワード・S・モース。

 日本美術を高く評価し文化財保護に尽力した、アーネスト・フェノロサ。

 彼らがセイラム、ひいてはアーカムと関係しているのは、偶然じゃないのよ」

 ……ほーお。

 僕、そうにしか言えないほど圧倒されてる。


「自分の孫が遠くに行ってしまうってときもね、それが日本だってわかったから、私、見守る判断ができたのよ。

 そうでなかったら、名乗り出てでも止めていたかもしれない」

 これには、瑠奈るいなの方が驚きの顔になった。

 父親と死に別れてから、ずーっと孤独に生きてきたと思っていたんだろうからね。気持ちはわかるよー。


「だからね、話を戻すけど……。

 ヨシフミ、あんたが団に入ってくれるのであれば、私のヨシフミ監視業務が軽くなるし、ヨシフミ自身が疑問に思っている、私たちがヨシフミを利用するのではないかっていう疑問も軽減できると思う。

 ま、しばらくは私、日本にいるからその間に判断してよ。

 アーカムで暮らすとかは、まだまだ先の判断だしね。

 フリッツは次のこの笙香の検査が終わったらドイツに帰るけど、私はもう少しここにいるから」

 お姉さまがそう話をまとめた。


 うーん、そうか、将来僕がどこで生活するかまで含めて、考えなきゃならないことは多いんだなぁ。

 それに、世界のあちこちに拠点があるってことは、会いたくてもすぐには会えない人たちがたくさん生じるってことでもある。

 それはそれで辛いなあ。

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