第77話 優心、不変


「ヨシフミ。

 ヨシフミは、そのまま優しいままでいてくれる?」

 これは、瑠奈の言葉。


 結局、お姉さまは話すだけ話すと帰って行った。

 これから東京まで新幹線で出て一泊、そのあとは飛行機でドイツに戻る、と。

 次に会えるのはいつになるかわからない。機会があれば来週だけど、機会がなければ100年後かもしれない。

 寿命が長いってのは、再会に対する考えも淡白にさせるのかもね。


 寿命の短い人間同士なら、会わなきゃって思うだろう。

 でも、20倍も寿命が違うと、関係性も変わるよね。寿命の長い方からしてみたら、孤独状態がデフォルトになっていて、それを埋めなきゃって強い意志は失われているんだ。

 誰を見ても、「どーせすぐに死んじゃう相手だし」ってなっちゃうんだよ。


 なんだかんだ言って、僕はまだ17歳。

 だからこそ、瑠奈の言葉の意味がわかるよ。

 瑠奈もまだ、そこまで喪失していない。

 そして、瑠奈の孤独は僕が、僕の孤独は瑠奈が埋めていくことができる。



 なんか、今回の話を聞き終えたら、お姉さまが可哀想になってしまった。

 東京の街を歩いていたら、お姉さまが放っておかれることなんかありえない。お姉さまはあまりにきれいだから。

 でも、100年も生きられない人間に、お姉さまは靡かない。

 孤独を埋められないことを知っているから。

 そして、どれほどいい人がいたとしても、C.R.C.に匹敵する人なんてのもいるはずがない。


 だから、C.R.C.のためにお姉さまは生きてきて、生き続けていく。

 孫の瑠奈のためという思いだって、C.R.C.への思いには勝てない。


 おそらくは、お姉さまとC.R.C.は、男女の関係にはならなかっただろう。聞いた範囲でもC.R.C.はお年寄りだったし、どれほどきれいであっても、お姉さまのことを、狼の子を産んだ狼ってことを知り尽くしてもいた。

 僕の想像に過ぎないけど、きっと創造主クリエイターと非創造物の関係から、父娘のような、師弟のような、同志のような、そんなようなものに変わっていったんだろうと思う。

 C.R.C.がいなくなっても、お姉さまは永遠にC.R.C.との関係を守り続けるつもりなんだろう。


 それに比べたら、僕は、僕たちは幸せだ。

 なにしろ、瑠奈も僕も生きている。

 そして、瑠奈は、僕に変わらないでいて欲しいって言ってくれているんだ。



「瑠奈。

 僕は変わらないよ。

 だからさ、瑠奈も変わらないでいてくれるかな?」

「いいや、ヨシフミ。

 私は変わるかもよ」

「えっ、なんで?

 どうに変わっちゃうの?」

 僕、ちょっと不思議になって聞いたよ。この話の流れなら、変わらないって言うはずだもの。


「100年経ったら、そしてヨシフミが変わっていなかったら、私を不老不死にしてくれる?

 ヨシフミがそのままでいてくれたら、ヨシフミを孤独にはしないよ、私」

 ……瑠奈、ありがとう。

 そういうことか、ありがとうね。

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