第76話 不明、制止
「今回のすったもんだで、いつの間にか壊れちゃったことにしたわよ。
まさか、ヨシフミのことを言うわけにもいかないし。
心神喪失状態だと公判は維持できないから、病院送りでしょうね。
ま、いつの間にかどうにかなっているわよ。
よくある話、ってこと」
「いつの間にか、死んでるとか、いなくなっているってことですよね」
僕、あえて確認をした。
「まぁ、ね。
嫌なの?」
「嫌というか……、どう考えたらいいか、わからないのです。
罪がないとは思えない。それどころか、とっても重い罪を持っていると思います。
でも、罪を認識する能力も、罪を償う能力も、僕が奪ってしまった。
例えば、自分が死刑になることを認識できない人を死刑にする意味ってあるんでしょうか……。
遺族感情とかも、僕は家族を殺されてないからよくわからないですけど、殺人を依頼した人と手を下した人と、どっちの方が憎いんでしょうね?
殺し屋ってのは依頼した人から見たら単に道具かもって考えると、ますます『植物状態のまま死刑でいいんじゃないか』とは簡単に言えない気がしちゃって……」
「そんなの、私だってわからないわよ。
人によっても違うでしょうし」
随分とあっさり片付けたね、この人は。
「あのね。
人を殺した罪深さというならば、私もなんだよ。
たぶん、あの殺し屋より私の方がたくさん人を殺してる。さらに言えば、殺したあと、貪り食った。
だから、仲間はみんな殺されたの。
そんな経験があるからと言って、私に判断なんてできない。
あの殺し屋の人生には、私と違ってC.R.C.はいなかった。それを可哀相と取るか、永遠とも思えるほどの償いをしなくて済んだと取るかでも変わってしまう」
……そか。
お姉さまは、600年以上の贖罪の生を生きてる。疲れることもあるんだろうなぁ。
「僕がC.R.C.の代わりになって、あの殺し屋さんを……」
「やめなさい。
思い上がるんじゃないわよっ。
あんたみたいな若造ができることじゃないってのが、わからないの?」
びしっ、って言われた。
……お姉さまの言うとおりだ。
そして、お姉さまは、僕を救おうとしてくれている。
いくら僕だって、そのくらいはわかる。殺し屋さんがいつの間にかどうにかなってしまうことを、僕が自分のせいだと思わないように……。
だから、言葉づかいも厳しいんだ。
でもって、お姉さまは全面的に正しい。
僕に、C.R.C.の代わりができるはずがない。そんなこと、僕にだってわかる。
僕があと100年生きて、人間のことも、世の中の仕組みのことも、もう少しわかるようになったら……。
そうしたら、僕も初めて罪深い人をも救えるようになるのかもしれないね。
もっとも、僕は真祖のヴァンパイアで、教祖様じゃないんだけれど。
ごめんね。
僕は、こうなってしまったことや人のすべてに対して謝るよ。
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