第78話 日常、贈品


 自宅に帰って、いきなり母さんに嫌味を言われた。

「今日はお早いお帰りで」

 って、なんなんだよっ。

 あのさぁ、遅くなったらなんか言うのは仕方ないけど、いつもどおりの時間に帰ったときでもなんか言うの、やめない?


 でもって僕、感覚を無にして、味のない晩御飯を機械的に胃に収める。

 そして、部屋に戻ってから、ネットに繋いでアクセサリーを見繕う。


 だってさ、瑠奈がずっと一緒にいてくれるかもって言ってくれたんだよね。したら、僕だって、僕の思いを形にして残したいじゃん。

 そして、それを瑠奈にプレゼントしたいじゃん。


 今まで、僕の経済力じゃそんなの無理だった。

 でも、今ならなんとかなるんだよ。なんと言ったって、未だ帯封を切っていない100万円という札束が僕の手元にあるからね。


 でも……。

 僕、さすがに指輪を渡す勇気はない。

 とはいえ、今はイヤリングかネックレスにしておいて、同じデザインの指輪も買って隠しておいてもいいかもしれないな。

 将来、瑠奈ともっと近づけたら、プレゼントするためにさ。

 そのときになってからじゃ、同じようなデザインのものはきっと手に入らない。


 と思っていたんだけど、いきなりアクセサリーのサイトを見て30秒で僕はつまずいた。

 指輪って、サイズがあるんだ……。しかも、号ってなに……?。

 わっかんないよ、そんなの。

 号が、指輪の内周の長さだって言われでも、僕、瑠奈の指の円周なんてわからないし、感覚で直径ならわかるけど、指の断面が円周率を使って計算してもいいくらい真円なのかもわからない。

 おまけに、その号って、ほぼ1mm単位で刻まれている。

 これじゃ、当てずっぽが命中する確率はとても低いよね。


 こういうのって、本人に聞きにくいし、世の中の人はどうやって調べているんだろう?

 中学の時の同級生の笙香に聞くこともできるだろうけど、正直言って悪い予感しかしない。あいつは、「瑠奈には言わないで」って言ったら、絶対に言うもん。

 そういう意味では、確実って言葉を使えるほど、僕は笙香を信用している。


 さらにさらに悩んだ僕は、サイトをうろうろし続けて、「フリーサイズ」って単語に飛びついた。

 もしかしたら瑠奈、指輪をしたままジェヴォーダンの獣の姿になるかもしれないじゃん。そのときに、子牛ほどの大きさになって、指の太さは人間のときと変わらないってこともないと思うんだ。だから、変身したら指がちぎれたなんて避けたいからね。

 フリーサイズ大歓迎だ。


 青のきれいなサファイアは高かったけど、SPF50+でPA++++の日焼け止めを買う以外のお金は全部つぎ込んじゃえるからね。新作デザインって書いてあるのを、イヤリングとセットで買ったよ。

 ネックレスだと、「首輪かっ!?」って言われると困るから。で、ピアスは穴開けるってのが怖いからパス。



 瑠奈、喜んでくれたらいいなぁ。

 一度もアクセサリーとか付けているのを見たことがないから、渡したときにどんな顔するか楽しみだなぁ。

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