第12話 発見、熟慮


 換気扇、パイプファンだったんで、僕はくねくねとそのパイプを通り抜けて建物の裏に出た。それから、ちょっと大回りして建物の表に回った。強い風がなくてよかったよ。

 火災報知器が鳴り響くようなことはなかったけど、スプリンクラーが作動したからかもしれない。消防車のサイレンがだんだん近づいてくる。

 その一方で、静かだと誰も気がつかないみたいで、敷地に入ってくる野次馬の姿はない。


 ありがたいよね。

 今ここにいる相手は、みんな敵と見做していいってことだから。


 ……僕、少しは銃火器について勉強したほうがいいのかもしれないね。

 僕たちのいた部屋に向けて、まぁ、つまりはその窓に向けて、棒みたいな長い銃を構えているのが1人。その横に、同じ服装の人がもう1人、って、これ、予備の人なんかな。

 知識がなくて、どんな種類の銃を構えているのか、どんな役割なのかとかは全然わからない。

 でも、まぁ、2人いた。


 お姉さま、よくもまぁ、この人たちに気がついたねぇ。

 お姉さまと瑠奈るいなは銃弾なんか当たらない運動能力を誇るけど、こういう窓という狭められた空間を通るときはさすがに避けようがない。

 しかも、この長い銃、やたらと威力がありそう。

 子牛ほどの大きさを誇る「ジェヴォーダンの獣」でも、その弾が命中したらやられる。

 そもそも、瑠奈のお母さんだって、ライフルで撃たれて死んじゃったんだもんね。


 ってことは……、今回の襲撃は炎と銃弾の二段構えで、確実に殺しに来たってことなのかな。

 それは、さらに2つ可能性があるよ。

 お姉さまと瑠奈を狙ったのか、今僕と一緒に霧になっている殺し屋の男を狙ったのか、だ。

 この男も相当に強そうだから、二段構えの作戦を採る対象だとしてもおかしくはないよ。



 で、今の僕、殺し屋の男を抱えて霧になっている状況で、この2人の男と戦うのは無理。

 僕が実体化したら、抱えているこの男も実体化しちゃうから。

 かといって、霧のまま戦うとしたら、採れる手があまりに限られちゃう。


 赤く輝く目だけ実体化して洗脳する手も、2人同時は難しい。

 今抱えている男も、身体に叩き込まれている訓練の成果だけでだけど、反撃しようとしたんだよね。それは僕に余裕があったから抑え込めたけど、これが2人となるとどうなるかわからない。

 僕の負けは絶対ないけど、なんせ1人を霧にして抱えこんでいるってのがどうにも邪魔なんだよ。でもって、この男になにかあっても僕の負けだからね。



 ただ……、待つだけでいいのかもしれない。

 消防車がここにたどり着いたら、さすがにこの人たちも退却するだろう。

 で……。

 そこで選択肢が生まれる。

 退却するコイツラの送り狼になって、正体を突き止めるかどうか、だ。


 ただ、コイツラの後を付けるとしたら、お姉さまと瑠奈が無事で、僕を追って来てくれるというのが前提になる。

 どれほどの遠距離に移動されても、それこそ外国からだって僕一人ならコウモリになって飛んで帰れるけど、この男まではなかなか運べないからだ。

 お姉さまと瑠奈が大ヤケドでもしていたら、僕は敵中で孤立無援になってしまう。


 サイレンの音がどんどんと近づいてくる。

 決めなきゃ、だ。 

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