第11話 脱出、確認


 霧になったまま、僕、殺し屋の男を連れて病院の建物の外に出た。

 火災報知器は鳴らなかった。電源が来ていないからかもしれない。スプリンクラーが作動したのはどうしてなのかわからないけど、助かったよ。

 こういう場合、消防車が来てくれるのかな?

 もっとも、来てくれたにしても、スプリンクラーの勢いからして、鎮火済みだとは思う。



 さっきの襲撃を思い返す。

 すべてが一瞬だった。その中で、お姉さまが想定していた以上の事態が起き、指示が次々とバージョンアップした。その中でも最重要なポイントは、火炎放射器の使用だと思う。

 それって、どういうことなのか?

 考えると僕は恐ろしさに震えが来た。


 つまりさ、この殺し屋の男も含めて、全員を殺しに来たってことだ。

「ジェヴォーダンの獣」であるお姉さまと瑠奈るいなにしても、銃弾は躱せても面の攻撃は躱せない。つまり、相手がどういう対象か突き止めた上での攻撃ってことだ。


 その一方で、もしかしたら僕の存在は知られていないのかもしれない。

 というのは、霧になったときに火炎放射器で煽られたら、さすがの僕も燃えちゃうと思う。

 その一方で、僕が霧になることを知っていたら、換気口の出口を塞いでおいたはずだ。あれほど静かに忍び寄ってきたんだから、十分可能だったはずだ。


 僕を泳がせて後を付けるつもりならば、霧の状態だと肉眼では見えないから犬の嗅覚が必要だけど、そういった準備もない。

 つまり、僕は、敵からマークされていないかもしれない。

 それを先読みしたからこそ、お姉さまは「絶対実体化するなっ!」って叫んだんだろう。霧でいれば、僕だけでなく殺し屋の男も安全だからね。



 その一方でさ、火炎放射器の威力って、割りと自由に設定できるんじゃないだろうか?

 最大火力にして、あの程度で済むのかなってのも思うよ。

 もっと威力を増せたかもしれないのに、あの程度で来たってことは、僕たちの死亡確認は確実にしたいってことだろうね。スプリンクラーの威力より火炎放射器の威力が勝ったら、建物が全焼しちゃうし、そうなったら死体の確認ができなくなるかもだからね。

 つまり敵は、そうした加減ができる、軍なりに相当するだけの作戦力と戦闘力を持つ集団だってことだ。


 ここで初めて僕、お姉さまと瑠奈が死んじゃっているかもしれないって可能性を考えた。

 人間って怖いよ。相手の特長を分析して、それを無効化する作戦を立ててくる。そうしたら、さすがのお姉さまと瑠奈も……。


 僕が見た、最後の2人の姿を思い浮かべる。

 お姉さまは窓から飛び出しかけた瑠奈の足を掴んで強引に引きずり戻し、窓の外にこそデットエンドがあるって叫んでた。

 つまり、室内で、あの火炎と猛烈に熱い水蒸気の中に踏みとどまったはず。


 いてもたってもいられない気がしてきた。

 でも、現場に戻っちゃいけない気もした。

 まずは霧の状態のまま、お姉さまの見破った窓の外の罠を確認するよ。

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