第10話 襲撃、退却
「ヨシフミ、奥っ!」
お姉さまの小声の指示に従って、僕、移動する。
僕には聞こえないけど、敵、近づいてるんだろうね。
かすかにだけど、金属同士が触れ合う音が聞こえた。
確実に、お姉さまにも聞こえてる。
気がついたら、
「ヨシフミ、殺し屋の男を連れて、霧になってて」
ってお姉さまの指示が変わる。
僕、すぐそれに従う。
敵の目的が殺し屋の男を奪回するにせよ、口を封じるにせよ、僕と霧になっちゃってれば見つかることはないから安全なはず。
それに僕、「お姉さまと瑠奈をおいて逃げて卑怯かな?」みたいな気がかりもない。
だって、子牛ほどの大きさの肉食獣が2頭、そして「ジェヴォーダンの獣」の能力は、普通の狼とは桁違いなんだ。
相手が重機関銃でも持っていて、狙って撃つだけの距離があれば心配だけどさ。拳銃程度じゃ絶対に当てられないからね。
今度は瑠奈が言う。
「ヨシフミ、これは、ちょっとヤバいかもしれない。
霧の状態のまま換気口とか入れたら、急いでこの部屋からできるだけ離れて。
ちょっとマジ、ヤバ……」
僕、瑠奈の言葉を最後まで聞かないで、換気扇のパイプから、殺し屋の男ごと身体を送り出して、目だけを部屋に残した。
焦っているの、すごく伝わってきたからね。
……お姉さまの顔に横切ったの、怯えかな?
それが一瞬にして瑠奈にも伝染する。
えー、どんな相手なんだ?
初めて見るぞ、こんな表情。
「ルーナ、これはまずい。
相手の確認をして、間違っていなかったら窓を突き破ってでも逃げるわよ。
考えている余裕はない」
近くまでは忍び足で来たんだろうけど、もう、あからさまに隠そうともしない足音が殺到してきた。
そのときになって、僕にもお姉さまと瑠奈が嗅いでいたであろうニオイを感じられていた。
ガソリンだ……。
まさか……。
どかんっ!!
部屋の扉が吹き飛んだ。
手榴弾みたいなものをぶつけられたんだろうか? 蹴破るとかの勢いじゃない。
逆に、人間が扉を蹴破るスピードと力なら、お姉さまと瑠奈が対応できないはずがない。
お姉さまと瑠奈が動けないまま、次の瞬間、炎の舌が一気に伸びてきて、部屋の中を舐めた。
敵の群れの中に、ボンベみたいのを担いだ男が2人。
炎の動きは銃弾よりゆっくりでも、その制圧面は遥かに大きい。
銃弾をかいくぐって相手に肉薄できるはずの2人が、為すすべなく後退する。
次の瞬間、炎の舌に舐められた窓ガラスが割れた。
瑠奈が、その窓から飛び出そうと身を躍らせて、お姉さまが空中でその足首を掴まえて引きずり戻す。
ごうごうというすごい炎の音の中、お姉さまの指示が聞こえた。
「ヨシフミ!
絶対実体化するなっ!
逃げろ!
窓の外が、デッドエンドだ」
その声を聞き取り終わると同時に、天井のスプリンクラーが弾けた。
一気に部屋の中が水浸しになり、炎が小さくなっていく。
そこにさらに炎が延びる。
水蒸気でなにも見えない。
僕が確認できたのはそこまでだった。
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