第37話 父さんが生き延びて


 もう、両親は放っておいて、好きほどやらせておこう。

 そのうちに、なんで喧嘩ができているのか気がつけば、それでめでたしめでたしだよね。


 でも、正直に言って、ものすごく驚いた。

 そして驚いたけど、腑にも落ちた。

 瑠奈が、母さんは生贄として死ぬんじゃないかって予想していたよね。僕には、母さんにそんな価値があるのかわからなかったけど……、って、別に母さんが無価値だって言いたいわけじゃなく、生贄にされるような必然としての価値があるのかって話。

 で、その価値はあったわけだ。


 この世界はゴムチューブの内側みたいなもの。その弾力で、時間の流れに対する多少の変更は飲み込んでしまう。

 そして、ゴムチューブの外を認知できる特殊能力を持つ人もいれば、認知できる科学力を持つ存在もいる。さらには、その外に出られるという能力まで想定されてる。

 母さんは、ゴムチューブの外側の力を、父さんの命令があれば自在に使える人なんだ。

 つまり、母さんを洗脳すれば、その利用価値は果てしない。


 だから、生贄にも選ばれたんだろうし、父さんはそれこそ命懸けで守った。そして、その2人から僕は生まれ……。

 って考えると、僕がヴァンパイアになったのも、どこかで必然だったのかもしれない。もっとも、運命で自動的になれたなんてもんじゃなかったのも事実だけど。僕なりに相当の努力はしたからね。

 ただ、瑠奈という極めてレアな存在に会えたのは、それこそ運命の必然というやつだったのかもしれないな。


 ひょっとしたら、こういう運命をデザインした神様もいるのかもしれないね。

 で、その神様がいるとしたら……。

 僕と瑠奈になにをさせたいんだろうな?

 否応なく、そんなことを考えさせられちゃうよ。



 − − − − − − −


 僕と瑠奈、フリッツさんを連れて瑠奈の家に移動した。

 僕の両親はもう放っておけばいいって、マジに思ったんだ。たぶん、もう大丈夫。

 母さんの秘密を知って、ちょっとヤバかったとは冷汗かいたけどね。


 単なる皮肉屋の女性の生命を数十年分って話だったのに、実は生贄にされる必然のあるほどの能力のある女性の生命ってことにだったから、代償が足らないってこともありえたんだ。

 ま、もしかしたら実際ちょっと足らなくて、本来ならあと30年生きるところを25年になっちゃったってのはあるかもしれないけど、まぁ、それはそれで良しとしちゃおう。


 少なくとも、今、自分の周りで死の匂いがしていない。僕としては、これだけで十分。

 本当に、それで十分なんだよ。



 瑠奈がお茶を入れてくれて、和やかな雰囲気になった

「そのうちに、私の会社のワインも飲ませてあげたいけど、まだヨシフミは未成年だからねー。

 でも、パパとママにお祝いとして1本あげるから、持って帰って。

 あ、フリッツさんもね」

 うん、ありがと。


 ヴァンパイアが、を飲むにしても、オレンジジュースより赤ワインのほうがサマになるもんね。

 やっぱり飲み物は赤くないと、だよ。

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