僕たちの未来

第1話 閑話休題


 お姉さまが帰ってきた。

 殺し屋さんたちを送り届けてきたんだ。

 で……、なんか打ちのめされてない?

 冴え冴えとした美貌がなんか、落ち込んでいる。


「なんかありましたか?」

 と僕、思わず聞いちゃったよ。


「ヨシフミ、あの2人だけど……」

「はい?」

「あれは長生きするわよ」

「は?」

 ソレ、どういうこと?


「私も、かなり危なかった。

 もしかしたら、横須賀海軍施設発の世界宗教が生まれちゃうかもしれない。

 あれで、あの基地の幹部クラスが帰依しちゃったら、大変なことになるわねぇ……」

 ええっ、マジか?


 僕、あの2人を神クラスの行動を取るように洗脳したけど、神を作ったつもりはないんだよね。

 でも、神クラスの行動を取るってことは、イコール神なのかねぇ。

 それを2人分も送り込んだわけだから、父さんと母さんの生命、ペイできたのかもしれないね。


「で、マジにそうなっちゃう?」

 と、これは瑠奈。

「さすがに対洗脳の訓練ってのもしてるとは思うんだけど、たとえ信者にならなくても殺しにくいでしょうねぇ、アレは。

 しかも、元殺し屋でしょ?

 もとからまっさらにきれいな人間じゃないってところが、現代ウケしそうで怖いわー。

 アレは野に放ったらダメなやつだ」

 ……僕、エラいことしちゃったかな?

 ヴァンパイアの作った、マガイモノの神様が本物になっちゃったら……。


 ま、そうなったらそうなったで、後始末をつけに行けばいいや。

 今は……、これは瑠奈にも言えないけど、僕、少し嬉しい。

 僕が洗脳した殺し屋さんが、とりあえずは死ななくて済むからね。罪は償うにしても、それが死をもって償うべきものだとしても、罪を犯した記憶はまったくないわけで、そこがどうしても引っかかっていたんだ。

 罪を償なわなくてもいいとは思わない。でも、どう償うのかについては、未だに答えが出せないよ。


 それにさ、例えば死刑にするために、人殺しの記憶をたくさん思い出させるとか、それもなんか違わない?

 彼らが神に相当するなら、僕も別種の神だ。

 でも、能力云々はともかく、今の僕は神として生きたいとは思わないよ。

 もちろん、実験動物として生きたいとも思わないけれど。


 というのは、さ。

「あの両親から生まれたということは、前の観察過程の前提が違っていたということになる。

 だから、もう一度ヨシフミの身体を調査させて欲しい」

 って、フリッツさんが言い出したんだよ。


「痛くしない?」

 って聞いたら、フリッツさんの視線が逃げる逃げる。

 それでもって、通訳役のお姉さま、基本的にフリッツさんの味方だからね。

「痛くないわよ」

 にっこり。

 なんで、フリッツさんがなにも言わないのに、通訳のアンタが答えを返すんだっ!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る