第2話 生贄に選ばれた理由


「ヨシフミなら、片腕落とされてもすぐ生えてくるからいいじゃん」

 って、お姉さま、それはないだろ?


 しかも、加えてフリッツさんの言葉がヒドい。

「切り落とした片腕からヨシフミが生えてこないか、確認したい」

 って、僕はプラナリアかっ?

 その実験始めたら、僕、縦だの横だのに、身体を両断され続けることになるぞ。

 で、僕が一度に200人とかに増えるんだ。


 ま、たしかに実験したい気持ちはわかるよ。

 例えば、首を切られて首から胴体が生えた僕は僕なんだろうな。

 でも、胴体から生えた首を持つ僕は、僕なんだろうか?

 そこにある脳は、僕の記憶も治癒再生して持っているんだろうか?

 ……これは実験してみたい。

 面白そうだし、知りたい。

 でも、僕の身体で知りたくはないなあ。


 お姉さまが口を開く。

「一両断100万円でどうだろうか?

 そう、フリッツは言ってる」

「嫌です。

 絶対嫌ですっ!」

「300万なら?」

「ふざけないで欲しいです。

 マッド・サイエンティストですかっ?」

「相手が人間だったら、そんな実験、絶対にしないって言ってるよ」

 くっ、どーせ僕は人間じゃないよっ!



 前に、笙香の手術をしたときに立ち会ってくれた教授を思い出したよ。

 あの人も、実験に対しては目の色が変わったよね。

 なんて言うのかな、きっとだけど、知識欲がすごいんだろうね。


 あ、なんか今、理解できた気がする。

 母さんが生贄の対象になった理由だ。

 母さんは、極めて特殊な能力を持っている。父さんが命令を出すことでその力は発動する。でも、だからといって父さんが上位に立っているわけじゃない。父さんは、一人ではなにもできないからだ。


 父さん以外に母さんに命令する人が現れ、その人が悪い人だったらという危機感を父さんは持っていた。

 でさ、父さん以外に母さんに命令する人は、父さん以外に母さんに命令する存在ってこともありえたんだ。つまり、ゴムチューブの外の世界からのね。

 だから、そのゴムチューブの外の存在は、母さんをゴムチューブの外に連れ出そうとした。つまり、殺そうとしたんだ。


 その一方で、父さんはそれを阻止するために、やはりゴムチューブの外の存在であるリリスと契約を結んだ。

 たぶん、リリスだから契約に応じてくれたんだ。


 リリスは、エデンの園で、アダムの最初の妻だった。

 そして、「同じく神によって土から作られたのだから」と、アダムと同等の権利を主張した。そして、それをアダムが認めないと、自らエデンの外に出ていってしまった。つまり、リリスも知識欲があって、でもそれを認められなかったんだ。

 僕は思うんだけど、その強さと考える力があれば、アダムの次の妻であるイブみたいに、蛇に騙されてりんごを食べたりはしなかったんじゃないかな。


 だからリリスは、母さんの持っている、「自分の力なのに自分ではどうにもできない」という、もどかしさと理不尽さを一番理解してくれたのかもしれない。

 父さんと母さんの力の性質の違いが、ジェンダーによるものとは僕は思わない。

 でも、リリスからしたら、そう取ることも可能なんだよね。


 結果として、リリスは、そんな母さんを助けたかったのか、母さんを利用しようとする存在が気に食わなかったのか、どちらにせよ父さんの願いに応えてくれたんだ。

 もっとも、代償は高かったけれど。

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