第4話 ヴァンパイアに明かされる真実


 そこで瑠奈るいなが質問に転じた。

「アンタこそ、人の血を吸ったことがあるの?」

「いや、ないよ」

「ま、どーせ、そーでしょーよ」

 なんか、完全に見透かされているって感じで言われたよ。


「なんで?」

 当然、僕は聞き返す。


 どうも僕と瑠奈は同じような人間以外の存在、そして、同じように人間の世界に住んでいる存在だけど、経験値が大きく違うみたいだ。

 まだ真祖のヴァンパイアになって30日も経っていない僕と、その言葉を信じるならば260歳の瑠奈の経験量が同じはずがないけど。


「あのね、私が本気を出せば、人類を滅ぼせる。

 人間の反応速度じゃ、銃弾も当たらないよ」

 また、瑠奈、明確に言い切る。

 怖いことを言うよね。

 そして、僕の顔をその大きな目で見据えて続ける。


「ヨシフミくんだって、誰かの血を吸ってその誰かをヴァンパイアにして、そのヴァンパイアにさらに人を襲わせる。そのねずみ算を繰り返せば10日も掛からずに人類を滅ぼせちゃう。私より遥かに楽にね。

 そして、過去にヴァンパイアはたくさんいた。

 なのに、人類が滅びていないのはなぜ?」

「なぜって、そんなことはしないから」

 そう僕は答えた。

 ヘルシング教授に退治されるからじゃないよ。

 そもそもね、人類が滅ぼすとか、あえてそんなことを始める必要がどこにもないんだ。


「そうなのよ。

 私だって、獣と呼ばれていても、そんなことはしない。

 人間とは価値観が違いすぎて、殺す必然性がないのよ」

 だよなー。

 何もリスクを冒して人の血を吸わなくても、薔薇の花を買うなら400円で事が足りる。

 まして、どこかの知らないおっさんの、加齢臭漂う脂ギッシュな首筋に噛みつくくらいなら、400円の方が遥かにいい。


 きっと瑠奈だって、狩りをするくらいならばスーパーで肉を買ってきた方が、簡単で衛生的だし、後腐れがないし、いいこと尽くめのはずだ。


「むしろね、人間のふりをして、人間の世界でそのシステムを利用させてもらう方がよっぽど生き易くてね。

 寝てても目的地に着くし、お風呂も入れるし」

 んんんんん、お風呂かぁ。

 どっかで聞いた論理だ。って、母さんかぁ。

 すげーな、現実は予想の遥か上を行くよ。ここにきて、まさかの母さんが正しかったってことかよ。


「だからね、覚えておいて。

 たくさんの存在が、人間社会には紛れ込んでいる。

 この学校では私たちだけだと思うけど、地域だともっといるみたいよ。

 基本的に私たちはみんな長寿だから、数はあんまり減らないのよね」

 ……なるほどなぁ。

 びっくりだよ。ヴァンパイアにならなかったら、知らない真実だったなー。


 ……ということは、僕が目立ちだして、瑠奈はすぐに事態の予想がついたってことだろうね。

 うーむ、これって朗報だけど、同時にいろいろ考えちゃうよね。

 もっと目立たないように生きないとだし、狼男とか、人魚とかも身近にいるってことだよね。知らずしらずに、そういう人たちとお友達になるかもしれないじゃん。あ、人じゃないけど。


「で、話を戻すけど、どうするつもりよ?

 真祖のヴァンパイアのヨシフミくん」

 うわーっ、瑠奈、母さんと同じ口調だな。

 ここでその口調が気になったからって、僕がマザコンってことにはしないで欲しいけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る