第9話 ヴァンパイアの掣肘
「あの
これは、僕が瑠奈に聞いたというより、独り言。
「慣れた」
横から口を出すのは、墓石。
ああ、そう。慣れたんだ。
……人の順応力ってのは、すごいなぁ。
ああ、「墓石」って、文化祭のお化け屋敷で「桜井家の墓」っていう墓石を作ってからの、桜井の新しいあだ名だ。酷いあだ名だけど、本人が喜んでいるので、そのまま定着。ダンボール製の墓石、桜井は捨てずに持ち帰ったくらいだからね。
このあだ名を聞いたクラス外の誰もがみんな微妙な顔をするので、さらに本人は気に入ったらしい。
担任ですらいじめを疑ったのに、「墓石に書いた自分の名前は赤字で入れたからいいんです」って、どういう意味かさっぱりわからない。
結局、聡太の「桜井んち、石材屋だったよな」という一言で、「まぁ、いいか」って雰囲気になった。「将来、墓石を建てることになるとしたら、誰もが櫻井んちに頼むよ。インパクトあるあだ名で忘れないし。それでチャラでいいじゃん」ってね。
で、それはともかく、笙香を追っ払った瑠奈がこそこそっと話す。
「ヨシフミが身長を伸ばす実験に協力してくれるなら、笙香の体のことも全面的に協力してくれるって」
「えっ、どういうこと?
なんで、僕が願ったことと僕が欲しいことが、取引材料になるの?」
そりゃありがたい話だけど、ちょっと筋が通らないくらいこちらに有利な取引になっちゃうよね。
「ヴァンパイアの背を伸ばすってことは、どういうことだと思う?
基本的に、ヴァンパイアの生体時間は止まったまま。だから、不老不死だし、成長もしない。
でも、背を伸ばすのは成長するってことだから、生体時間を制御するってことになる。
ここまでは、ヨシフミもわかっていることだと思う」
うん、そのとおりだ。
だから、僕、大きく頷く。
「私も説明されて初めて理解したんだけど、ヴァンパイアに限って言えば、生体時間の制御は、双方向に自由自在かもしれないって。
止まっている車輪を動かすときは、前後どっちにも転がせるってさ。
つまり、禁断の若返りってこと。
となったら、その実験、せずにはいられないから協力しろってさ」
「ふぅん……」
ってさ、今の僕に、若返りの価値はよくわからない。
小学生に戻りたいとは思えないもん。
でも、お爺さんになったとしても、ずっとそのまんまの姿でいなくていいってのは、良いことかも。
「ただね、それが上手く行ったら、ヨシフミは真祖のヴァンパイアとしても、破格の力を持つことになっちゃうって。神を作るに等しいってさ。
だから、ヨシフミを制する方法を見つけてからでないと、実際にヨシフミを対象に実験はできないってさ。これは人類全体のためだって」
……ん?
言いたいことはすごくよくわかるけど、でもそれって、僕は薔薇十字団の人たちの思うがままに制御される立場になるってことじゃないのかな?
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