第11話 畳みかけるヴァンパイア
それからも、
ひょっとして、現実歪曲空間も備えてないか、笙香は?
目に見えて瑠奈が落ち込んでいくのがわかったけど、それを笙香はさらに勘違いして、松O修造ばりに瑠奈を元気づけようとした。
なんなんだ、この変な循環?
「『内川瑠奈は元気だっ!』
ほら、私のあとに続けて。ほら、大きな声で。
できるっ、できるからっ!」
うむ、すごい。言葉だけで、人を見る見るうちにここまで憔悴させられるものなんだな。
瑠奈、目がうつろになっちゃってる。
「あー、わたしは、げんきげんき」
のっぺりと、ひらがなで声を上げる瑠奈。
この状態は、瑠奈と笙香の帰り道が分かれるまで続いたんだよ。
ぐったりとしながらも、笙香に手を振った瑠奈が、あらためて僕の顔を見る。
「笙香を助けたい理由、わかったでしょ?」
「えっ、全然わからない」
「ヨシフミも100年も生きるとわかるよ。
ああいう付き合いをしてくれる人、どんどん減っちゃうんだよ。
空気が読めないって言えばそれまでかもしれないけど、ありがたいんだよね」
言われてみれば、僕も思い当たる。
僕だって、やっぱり瑠奈に対して敬意みたいなものを持っている。だって、なんせ、瑠奈自身は意識してなくても、年長者の風格みたいなものをいつの間にか身にまとっちゃっている。
なのに、笙香は誰に対してもあの調子だもんな。
瑠奈に言われて急に、笙香のあの無遠慮さの価値がわかってきた気がしたよ。
実際のところ、笙香がいなかったら、瑠奈、クラス内でももうちょっと孤高って感じになっていたかもしれないしね。
もしかしたら笙香、瑠奈の欲しい物を無意識に掴んでいるのかもしれないね。
うん、でもやっぱり、きちんと話さなきゃだな。
笙香の存在意義はわかるけど。
僕は、笙香の生命を握っている。けど、その代償の意味もわかっているつもりなんだ。
「瑠奈さん、2つ質問があるんだけど。
僕と瑠奈さんで、笙香を助ける。
僕は、自分の年齢を好きに設定できるようになる。
僕は、自分の生命をいつでも断つ自由を他人に与える。
僕が、僕の生命を人に預けたくないと思ったら、笙香は死ぬ。
1つ目の質問。
僕の理解は正しいかな?」
「うん。
完全に正しい」
瑠奈の返事は短い。
「笙香の病状からして、僕に半年とか悩む時間はない。
僕は、僕の生命を差し出すにあたり、その相手が僕のことを道具としない保証が欲しい。
笙香を助けたことで、僕は永遠にその組織の下僕になるのはさすがに嫌だ。
まして、その組織が世界征服でも企んて、その兵隊にされるのは絶対に嫌だ。
笙香だって、悪の秘密結社に最大の戦力を与えることになると知ったら、それでも生きたいとは言わないと思うんだ」
僕、あえて、極端な言い方をした。
だって、僕は薔薇十字団を直接には知らない。だから、瑠奈の反応を見てみたかったんだ。
「2つ目の質問。
その保証、ある?」
僕は、瑠奈に畳みかけた。
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