第7話 ヴァンパイアの感傷


 翌日、つまり、文化祭の当日が来た。

 朝、ホームルームだけして、そのあとはほぼ解散みたいなもの。

 他のクラスの展示を見て、自分のクラスの展示を手伝って、お昼と夕方になる前に点呼があって、そのあとは片付けて終わり。


 で、昨日はあのあと、瑠奈るいなとは話せなかった。

 だって、怖いじゃんっ。

 そもそも昨日だって、僕の人生であんなに「!」とか「?」でふんだんに飾り付けられる日が来るなんて思ってなかったよ。



 でさ。

 朝、瑠奈の顔を見て、「おはよう」って言ったさ。

 クラス中が固唾を飲んで、僕たちを見守っているのがわかったよ。


 瑠奈、ちろんって僕を見て……。

「ヨシフミ、おはようございます」

 だって。

 くっ、ダメージでかいぞ。


「昨日はごめんなさい、瑠奈

「気をつけてくれればいいんですよ、ヨシフミ

 お互い、距離感は大切にしましょうね」

 ち、ちきしょーっっっ!!

 クラス中の生温かい、憐れみに満ちた視線が痛いぜー。



 で……。

 当然のことながら、ウチのクラスの展示、とんでもない盛況になった。

 全校生徒が押し寄せてきたからね。

 学年主任の先生が怖くて逃げたって噂、あっという間に広がっていた。

 始まってしばらくしたら、教頭先生が、そのあとには校長先生もやってきた。

 この2人には、ちょっとサービスをしておいたよ。

 ビビらない程度に、怖さ当社比1.2倍。


 「んが」っていう、瑠奈の口だけお見せして、僕のコウモリの翼の風切り音だけお聞かせして、お引取り頂いたんだ。

 ま、十分怖かったろうさ。



 で、和風ホラーの方も当然のように順調。

 桜井は墓石の中から追い出して、展示の説明をさせたよ。

 聡太と笙香もだ。

 こういう仕事は、口が上手い奴、人当たりがいい奴がやるべきなんだ。

 ついでに言うならば、僕みたいな失言大王はやっちゃいけない仕事だよね。



 それでさ、僕と瑠奈、ずっと一つのエリアにいるのに、常に誰かしらが出たり入ったりしている状況。

 で、2人で怖い雰囲気を交互に出してる。

 きゃーっとか言われて、ばたばたと逃げ出されるってのを1日やっていると、なんか虚しくなるね。

 脅しておいてこんな言い方もないもんだけど、そんなに怖がられる存在だったかな、僕たちって。

 最初は面白かったんだけどねぇ。


「瑠奈さん、なんか、心にダメージ蓄積してこない?」

 人波の切れ目で、こそこそって話しかけてみる。

「ヨシフミ、アンタ、自分で立候補して、嬉々としてやっていたじゃん。

 いまさらなにを言ってるのよ?」

「いや、怖がられ続けると、自分はやっぱり怖い存在なのかなって……」

「うんばっ」

 瑠奈の返事は、エリアに入ってきたお客さんへの仕事。瑠奈の牙を見た1年生の女の子、「きゃーっ」って走り去っていった。


「じゃ、ヨシフミ、アンタは、人に戻れないの?」

「戻れないみたいだよ。

 戻るつもりもないし」

「なら、受け入れるしかないじゃん。

 私だって、戻ったら単なる狼だからね。戻れないよ」

 うーん。


 自分自身で、なにを悩んでいるのかよくわからない。

 みんなに愛されるヴァンパイアを目指そうなんて思ってないし、人には好かれたいと思っているわけでもない。

 単なる感傷なのかねぇ。

 

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