第21話 ヴァンパイアの告白


「おまけに、なんで、人の初めてのキスを奪うのよ?

 ヨシフミのくせに、王子様気どりっ!?」

 あ、やっぱりそこ、蒸し返されるよね。

 でもって、襲ってきたのはアンタだ、アンタ。


「だから、それは誤解だって。

 麻酔から覚めて、すぐ人に噛みつこうとするからだろ」

「当たり前じゃないっ!

 怪しい薬嗅がされて眠らされて、気がついたときに誰から抱きしめられていたら、すぐに反撃するのは正当防衛よっ!」

「あのさ、病院に連れて行こうとしたら襲われたっていう僕も、正当防衛なんだけど……」

「そんなこた、わかっているわよっ!」

 あー、もー、これ、完全に八つ当たりだ。

 普段、言うことがもっと強気でも、筋が通らないことまではゴリ押しはしないからね。


「あのさ、端数はともかく、260歳ぐらいだったよね?

 今までも、いろいろなことがあったよね?

 で、本当に初めてのだったの?」

「ヨシフミぃっ!

 アンタ、なんてこと言うのよっ!?」

「えっ?」

「これだから、中学生は……」

 えっ、また僕、失敗した?


 瑠奈、涙を拭うと、「きっ」と僕をにらんだ。

「ヨシフミはさ、私がたくさんの誰かたちと、キスしまくって生きてきたと思っているん?」

「いや、そんなことは思ってないっ!」

「さっきの質問、そー言っているんと、同じでしょっ!?」

 えっ、あ、うーん、あれ、そういうことにもなるのか……。


「でもさ、260年も生きていたら、好きになったりなられたりってこと、普通にあるよね?」

「ないわよっ!」

「なんでっ?」

 オカシイよ。

 中学生のクラスの中でだって、誰かと誰かがくっついただの別れただのって話はよく聞くのに。


「決まっているじゃない。

 私、親以外で、同族に会ったことがないのっ!

 いつか、同族のカッコいい相手が現れてくれるって、そう信じて生きてきたのに……。

 それにね、いいなって思っても人間だとね、あっという間に歳をとって死んじゃうのよっ。

 ぐすっ」

 あ、また泣いちゃった。


 ああ、そうか。

 それなら瑠奈の言っていること、わかる。


 でもさ、それを言ったら僕だって、ヴァンパイアの女性に会うことがなかったら、ずっと孤独に生きていかなくちゃならないってことだよね。

 それはやだな。

 いくら引きこもって生きていきたいにしても、完全にボッチになってしまうのは嫌だ。「100年の孤独」なんて、シャレにならない。


 そうか、瑠奈はめぐり逢いを夢見ながら、200年くらいは孤独に耐えてきたのかもしれないね。

 うん、鼻で笑われるかもしれないけど、僕、言うぞ。前回は言えなかったからね。


「瑠奈さん。

 僕、種族を超えて、きみを大切にする。

 今は僕、瑠奈さんの20分の1くらいしか生きてないから、及ばないところも至らないところもあるけど、ヘマしないようにがんばるから。

 今晩のこれも、あとから良かったって思ってもらえるようにがんばる。

 そして、もう君を孤独にはしません」

「だから、なに?」

 瑠奈のちょっと不吉な声。


「えっ?

 なに? って、えっと、どういうこと?」

 少なからず狼狽えてるな、僕は。


「大切なことは、きちんと言いなさいよっ!」

 言葉とともに、「ぶわっ」って、瑠奈から殺気に似たなにかが放たれる。

 おかしいな、僕、言ったぞ。

 なにかそんな、大切なことを言いそびれたかな?


 瑠奈、僕の顔を見て、大きな大きな、それはもう大きなため息をついた。

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