第20話 ヴァンパイア、初めてのキス
僕、もう待てない。不安に押しつぶされそうだ。
救急病院に連れていくしかない。
で、瑠奈を抱えなおす。
ヴァンパイアの無限の体力ならば、瑠奈を抱きかかえて行くのは簡単だけど、その姿を誰にも見られたくはないからだ。
今日日、街中のどこにカメラが有るかわからないから、また霧化して病院へ行こうって思ったんだ。
で、霧化するとなると、僕の身体の周囲30cm以内に入ってもらわないとだから、こうするしかない。
ぐっと腕に力を込め、瑠奈の全身を抱き上げて霧化する一瞬前、瑠奈の顔でなにかが光ったような気がした。
反射としか言いようがない。
光ったのは瑠奈の牙。
両手で瑠奈を支えていた僕は、他に手段もなく、やはりとっさに伸ばした自分の牙でそれを食い止めていた。
重高音が響き、牙同士が噛み合うものすごい衝撃を、首の筋肉がきしみながらも受け止める。
人間の筋力だったら、根こそぎ首から上を持っていかれたかもしれない。ヴァンパイアの僕でも、かろうじて受け止められたに過ぎない。そんな凄まじさ。
牙と牙が擦れて、「ききききっ」て高い音を立てた。
瑠奈と僕、至近距離で目と目が合って……。
次の瞬間、瑠奈、僕から飛び離れた。誇張抜きで、実測しても5m以上の高度があったと思う。
で、どれほどの筋力なんだろう?
空を舞ったということよりも、着地のときにほとんど音を立てないことに驚いたよ。
「なにすんのよっ!?」
「僕じゃない。
瑠奈さんが……」
「言い訳するなっ!!」
声量は大きくない。
でも、地を這うような凄みと殺気は特大。
「説明を聞いてよ。
お願いだからさ」
「私の、初めてを返せっ!」
「はあっ!?」
「返して……、返してよぅ……」
えっ、次は泣きますか、この人。
で、初めてってなに?
「ぐすっ、ぐすっ。
私の、初めてのキスを返して。
なんで、ヨシフミなんかに……」
で、そか、僕は、瑠奈の初めてのキスの相手になってしまったのか。
って、アレ、キスなの!?
頭、吹き飛ぶかと思った。
まちがっても、「甘い」なんて修飾語はくっつかないなぁ。
「凄まじい衝撃のファーストキス」って、これはこれで嫌だ。
瑠奈、泣き続ける。
もう、近寄るに近寄れないし、なんか慰めようもない。
しかたないから、僕、事実だけを淡々と話すことにした。
「あのね、言い訳じゃなくて、状況報告だから。
お願いだから、それは聞いて」
まったく僕の言葉に反応しない瑠奈に向けて、僕は感情抜きに起きたことだけを話した。
「えぐっ、えぐっ……。
バッカじゃないの、ヨシフミ」
いきなりそれですか。
「なにがよ?」
「ぐすっ。
あの男の端末壊すより、ひそかにメールの転送設定した方が良かったじゃん」
「……あ!」
「もーっ、ばかばかばかばかーっ!
えーん、わーん」
「ごめん……」
「あて先のメアドは覚えてきたから……」
「そんなの、こちらから働きかけなきゃダメな方法でしょ?
あの男の背後、たぶん個人なりネットの集まり程度だとは思うけど、その根っこがもっと大きい組織かもってことだって、確認できないじゃん」
参ったな。
瑠奈の泣きながら言うこと、全面的に正しいよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます