第9話 ヴァンパイアと体育教師


 学校が始まった。

 そして、僕はさっそくやらかした。


 長袖を着た上にSPF50+でPA++++の日焼け止めを顔や首、そして手足に塗り塗りして、がっちりと日光対策をして……。

 そうまでして学校に行った僕が、始業式でうとうと居眠りが出たって仕方ないよね。そもそもヴァンパイアは、昼間寝る生き物なんだから。


 で、それを体育教師の片山に見つかった。

 校長あいさつ終了と同時に、式の最中だっていうのに捕まって、襟首吊るし上げられてクラスの列からつまみ出される。

「ごらーっ!」

 とか叫ばれたけど、つまらない。


 いや、夏休み前だったら、チビっていたかもしれないけど、それが全然さ、怖くないんだよ。

 ただ、ふうんって思うだけ。

 ほら、鯵に脅されても怖くないだろ? そのまま食べちゃうだけだ。


「すみませんでした」

 一応謝ったよ。

 そりゃあさ、居眠りしたのは悪いと思ったし。


 したら、片山の目が剣呑なものになった。

 で、なぜか、片山の考えていることが手にとるように伝わってきた。

 つまりさ、夏休みで緩んでいる生徒たちを、ここで一発ネジを締めなおしてやろうと。

 で、僕がスケープゴードに丁度いい、と。


 なんかさ、ため息がでたよ。

 先生って商売も大変だねぇ、ってのが一つ。

 もう一つが、そのスケープゴード役がよりにもよって僕だったかぁ、ってことで。

 

 体罰にならないようにと、殴るとかはないんだけれど。

「夏休み中に弛んでいる奴は、覚悟しておけ!」

 とか……。

 先生、顔に唾が飛ぶんで、上からの大声は止めてくれませんかね。背の高さが違いすぎるんで、降ってくるんですよ。


 ついそんな思いが、見上げている僕の顔に出たのかもしれない。

 片山の顔が怒りに満ちて、両肩に手をかけられて揺すられた。


 いや、揺すろうとして、動かなかった。

 ってさ、動くわけないじゃん。

 僕は真祖のヴァンパイアだよ。人類とは筋力が違いすぎる。

 で、僕が動かないので、片山センセ、独りでがくがく動いてる。


 片山センセ、全校生徒の目がそんな自分に向いていることに気がついたのか、「戻れ」って言って、僕は解放された。

 元の位置に戻って、体育座りに座り込んで、なんかため息がでたよ。

 なんか、前途多難だなぁ。

 

 ともかく、始業式は終わった。

 で、それからが大変だった。

「おう、校長あいさつで寝るとは、夏休みの間にでかくなったな、態度だけが」

 とか、

「ヨシフミ殿、片山が怖くなかったでござるか?」

 とか、

「今からでも柔道部に入ってくれないか?」

 とか、同級生たちが。

 あの片山とやりあったからさ、心配してくれているんだろうけど、放っておいてくれないかなぁ。

 今、僕はひたすらに眠いんだ。


 で……。

 それなのに、僕も現金だな。

 瑠奈るいなに話しかけられたら、一気に目が冴えた。

 夏休みが過ぎて、ちょっと日焼けして、ちょっと大人っぽくなって、ちょっと……、いや、かなり綺麗になってないか?

 久しぶりに見たから、だけじゃないよね。

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