第8話 ヴァンパイアの登校準備


 その日の午後。

 消化できないものを食べた腹部膨満感と戦いながら、僕はうとうとしたり宿題をしたりしていた。

 ヴァンパイアを昼型生活させるなんて、うちの親は僕を虐待している。

 でも、それを学校とか児童相談所とかに訴えても、きっと親でなく僕の方が要指導対象になってしまう。

 かと言って、徹底的に僕の力を証明をして見せたら、生体解剖とか、さらにろくでもないことになりそうな気がする。その場は逃げられても、人類ってやつの執念深さは恐ろしいからね。いつかは捕まって……。

 あー、やだやだ。

 世の中、なんて理不尽なんだ。


 と、またもや部屋の扉にノック。

 そして、返事も待たずに戸が開く。

「……父さん、なに?」

「ヨシフミ、ちょっといいか?」

「だから、なに?」

「話があってな……」

 父さん、部屋に入ってきて、僕の隣に座る。


「母さんは気がつかなかったけど、お前、薬味のねぎをよけてたな。

 やっぱりアレか? そういう設定なのか?」

「設定ってなんだよ?」

 聞き返す語調がきつくなるのは、しかたないよね。


「いやな、お前の苦労はわかるつもりだ。

 父さんも苦労してきた」

 ……アンタが、なにを、苦労した、って、いうんだ?


「詳細は話せないが、お前は独りではないからな」

 僕、極上のアルカイック・スマイルを浮かべた。

 ホント、仏像みたいに見えただろうな。

 ……ヴァンパイアだけど。


「なにかあったら、父さんに相談するんだぞ」

「わかった、そうするよ、父さん」

 そう言って、拳を合わせる。

 キレイゴトかもしれないけど、まぁいい。

 どうせピント外れななにかだろうけど、母さんのように最初から取り付く島もないのに比べたら、ナンボもマシだからね。


「そろそろ出かけようよー!」

 母さんの声。

「ヨシフミー、冷蔵庫におかずがあるから、ご飯は自分で炊きなさい」

 追撃、きた。


 そうか、映画見てフランス料理ってことは、もう家を出るんだ。

 楽しんでくればいいさ。僕を置いていくんだから。

 さっさと行ってくれれば、僕は寝られるからね、

 ヴァンパイアに規則正しい生活をさせれば昼型になる、なんてことはないんだから。マジ、少しは寝させろー、だ。



 − − − − − − −


 夏休みが終わる。

 本来、学校にももう行く気はなかった。

 でもさ、こうなると、行かないわけにもいかないよね。

 でも、登下校の際の直射日光はあまりにつらい。

 登校にも準備が必要だとはね。


 だから、アマ◯ンで、SPF50+でPA++++の日焼け止めを大量買いした。

 僕の貯金はこれで完全になくなったけど、生命線だからね。

 思わぬ出費だけど、体育のある日はできるだけ休むにしても、防御は固めないと。当然、登下校もあるからね。

 で、きっと、冬になったら買えないだろうし。


 やるつもりのなかった宿題も、がんばって終わらせた。

 これで1つわかったこと。

 ヴァンパイアって、頭がいい。

 今までのに僕だったら、この量の宿題をこの期間で終わらせるのは無理だった。

 寝ずに宿題をこなせる基礎体力とか以前に、脳内で問題がきちんと整理されて答えが浮かぶようになってる。ヴァンパイアがとくとくといにしえの事件とか、語れるはずだよ。


 すごいな、僕。

 学校でも、今までより頑張れるかもしれないな。

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