第7話 ヴァンパイアと素麺


 僕の部屋の扉がノックされた。

 母さんが顔を覗かせる。

「で、真祖のヴァンパイアのヨシフミ様、今日のご予定は?」

「……夏休みの宿題、片付ける」

 くっ、これが真祖のヴァンパイアの生活なのか?

 ヴァンパイアになる前と、ぜんぜん変わらないじゃないか。

 むしろ、イヤミを言われるようになっただけ前より悪い。


 僕の内心の葛藤にも気が付かず、母さんは続ける。

「そうしなさい。

 お昼はそうめん茹でるから」

 食わないって言うと、また揉めそうだ。

 今は忍従の時。

 しかたない、食おう。

 僕は、母さんに向かってうなずく。



 そうめんを食べる時が、またひと苦労だった。

 薬味のねぎがきつい。

 にんにくほどでないにしても、長ねぎはちょっとニオイがね……。

 やっぱり、僕は真祖のヴァンパイアにはなっているんだよ。


「どうしたん、いつもは薬味をたくさん入れるのに。

 (ずるずるっ、ずるずるっ)

 そう思って、せっかくたくさん刻んだのに。

 (ずぞずぞっ、ずぞずぞぞぞっ)」

 はいはい、ねぎはよけて、紫蘇と胡麻、生姜で食べますよ。

 取りようによっては、僕、猫になったみたいだよね。

 あと母さん、そうめんすすり上げながら話さない方がいいよ。

 いくらなんでも、お行儀が良くないから。


 添えられているのは、イカの天ぷら。

 自分がヴァンパイアだと思うと、イカも愛おしい。

 コイツも深海ではクラーケンとかで、人類からしたら僕と同じでモンスターだったのかもしれないからね。

 でも、母の対応を見ていると、やっぱり一番恐ろしいのは人間かもしれないなぁ。モンスターさえも食い、残り数日の夏休みの間、こうやってヴァンパイアすらイジメ続けるんだろうなぁ。


 で、1つ気がついた。

 僕はヴァンパイアだけど、血を吸わなくても生きていける。真紅の薔薇の精気を吸ってればいい。

 不老不死がヴァンパイアになった目的だし、正直言って血への渇望もない。

 でも、ひょっとしてだけど……。

 こんな下積み生活していたら、「乙女の生き血でも啜らなきゃやってらんない」って思うようになるのかもね。ストレス解消の一環で、ヤケ生血じゃ、吸われる方はたまったもんじゃないだろうけど。


 どっかのぼんぼんの二代目のヴァンパイアでもなきゃ、この苦労は全員がしているはずだし。

 で、不老不死ってことは生殖機能と引き換えの可能性もあるわけで、二代目のヴァンパイアってモノ自体、存在し得ないかもしれないんだ。

 だとしたら、まったく、きついよ。きつすぎるよ。


 少なくとも、真祖のヴァンパイア同士の結婚とか、子供を作ったとかの話は読んだことないもんね。人間との間にダンピールって子を作る話はよく読むけど。



 神様ってのは、なんでこんなにヴァンパイアに試練を与えるんだろうね。

 って、もともと神様とは敵対関係だったっけ、ヴァンパイアは。

 やれやれ。

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