第二部 高校生編 闇の中の人ならざるもの
第1話 襲撃、逃走
闇の中、男は走り続けていた。
日本という一見平和な国も、薄い表皮を剥がせば暗闇が現れる。
男は、要人暗殺を病死や自殺などのカムフラージュなしで依頼されたこともあるし、そういった事件がニュースになったこともある。
ただ、それらのニュースは巧妙に風化され、人々の記憶から消し去られていくのだ。
今回も、そういう仕事だった。
日本国内の互助結社組織のトップを衆人環視の中で撃ち、盗んでおいた自転車で逃げる。
過去にも行ったことのある作戦で、こういった事件に慣れていない日本人の社会の中では逃走も難しくない。追ってくるものはまずいないし、いたとしても自転車には追いつけない。車で追ってくる者がいたとしても、細い路地に入ればそれだけで撒けてしまう。
むしろ、車など使う方が、足がついて大変なことになる。
あとは、基本的といって良い程度の変装と、街に設置されている監視カメラ群の死角さえ認識していれば、簡単な仕事だとすら言えるのだ。
だが、思い返せば、今回の仕事は最初からケチがついていた。
男の鋭敏な感覚は、いつも誰かに見られているというざわめきを訴えて続けていたし、依頼の連絡からしていつもの手順とはいえ、仲介メンバーの入れ替わりがあったと聞く。
ハメられたという気がしてならない。
だが、一旦現場から離れ、監視の目を逃れることさえできれば、必ず復讐できる。
男は走る。
決して、苦悶や必死さが窺えないように。
ジョギング中の、善良な市民に見えるように。
いくら走るのに邪魔でも、拳銃は処分できない。
仕事に対して、確実を期するために選んだ選択が、ここへ来て足を引っ張っている。
処分するのであれば、安全な場所を選ばねばならない代物なのである。
男は走りながら、必死に考え、一連の事態を思い出し、状況分析を続けていた。
たった10分前、男は国道沿いのビルの入口でターゲットを視認し、後ろ手で背中の拳銃を抜いた。
夜といえど、ビルのロビーから漏れる光は、ターゲットの顔をしっかりと照らしていたし、付き従う者たちもいた。
依頼の条件は満たされていた。
そこまではいい。
だが、次の瞬間、その手の中の銃がくるりと時計回りに半周したのだ。
男の人差し指はトリガーガードに挟まれ、あっけなく折れた。
あまりの激痛に、視界が真っ白になりながらも、男は落ちる拳銃を地面すれすれで左手ですくい上げ、そのまま逃走に入った。
盗んだ自転車にまたがったが、次の瞬間、タイヤがぼろぼろに裂かれているのに気がついて、自分の足で走り出したのだ。
可怪しい。
先ほどの拳銃をひねられたこともだが、自分の周囲15mには誰もいなかったはずだ。十分に確認し、だからこそ仕事に掛かったのだ、
それなのに、誰がどうやって、そんなことをなしえたのか。
その方法がわからないと、敵を振り切ったという安心感は永劫に得られないのはわかっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます