第66話 言訳、良心
明け方って、ヴァンパイアにとってはお眠の時間。
でも、必死に起きていることに慣れてはいる。
だから、母さんが朝ごはんを作る音がしだした時に、僕、音を立てて階段を降りて台所に行く。
「あれ、どちらさまですか?」
いきなりそれですか、母さん。
たしかにさ、金曜の夜からずーっと家を空けて、帰ってきたのが月曜の朝。その間、まともに連絡もできなかったからね。
怒っているのはわかるよ。わかるけど、キツイ言い方だよね。
「ただいま」
僕、気まずく返事をしたよ。
なんかさ、瑠奈の首筋に噛み付いちゃいそうになったことといい、僕の身体の中、今日はもう気まずさでいっぱいだよ。
「連絡もせずに、未成年がなにをやっていたの?
あ、話さなくてもいいわ。
聞かされても納得なんかできないし」
……。
母さんの感情、今はウニみたいだよね。全方位に棘が出ている。
「ごめんなさい。
実は……。
バイトをしていた。どうしても使いたい目的があって……」
「進学校に行っている人が、欲しいものがあるからバイトをするって、どういうこと?」
「次の冬休みあたりから、大手の予備校の受験コースで鍛えたいと思って、その学費を……」
「そんなの、親が出すわよ。
なんで出してもらえないと思ったのよ?」
うん、母さんの追及してくる論理の方がまっとうだよなー。
「そうじゃない。
自分でやってみたかったんだ」
「ふーん。
じゃ、休みをすべて突っ込んでいくら稼げたの?
5万ぐらいは行った?」
「……10万」
さすがに1000万とは言えなかったよ。
ぎぎぎぎぎーっ、て感じで、母さんが軋みながらこちらを向いた。
そして、右手の包丁がそのまま僕に突きつけられる。
「あんた、なにをやったの?
犯罪でもなきゃ、そんな金額にはならない、
白状しろっ!」
ええっ、やっぱり10万でも納得してもらえなかったかー。
てかさ、僕、お金を数えるのに、1万、2万、3万、たくさん、いっぱい、うんと、だからね。5万円とか夢の世界の話だし。10万から上はホラ話の世界で100万でも体感額は一緒だけど、やっぱり母さんはそうじゃなかったらしい。
「金曜の夜から今日の朝で、60時間、寝ないで現場作業した。
そんなにびっくりする額じゃないと思うけど……」
「そんなぶっ続けで雇うところなんかないっ!」
「だから、3つの現場をリレーしたんだよっ。
なんでそんなにいちいち疑うんだよっ!?」
僕、そう言いながら、良心の痛みを感じていた。
嘘つきだからね、僕。
「二度と許しません!」
「……バイト入れる前には、母さんに言うようにするよ」
「あのね。体を壊したら元も子もない。
今日学校に行ったって、居眠りが出るでしょ、またっ!
それじゃ、本末転倒なのよっ」
……心配してくれているんだよね、母さん。
ごめんね。
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