第31話 父さんの病室で2


 フリッツさんが言うには。この魂のコピーを取る技術、案外古いんだそうな。

 ただ、人の魂のコピーをとるってことはあまりなくて、本来は、ホムンクルスの魂を抜くための方法なんだって。


 ホムンクルスは、フラスコの中で作る人造人間。

 つまり、どのような形のものかは別として、魂を作ること自体は技術と時間を費やせばできるんだ、と。

 でもって、その魂の応用先はとても広い。

 たとえば、泥を捏ねてもそれは泥だけど、魂を吹き込めればそれゴーレムになる。

 単なるロボットを作っても、魂を吹き込めれば、かなり人間に近くもなる。


 ただ、さすがにコレ、神の領域に人間が足を踏み入れるものだから、恐れられているし、技術的難易度も極めて高い。


 うーん、中世の魔術師や錬金術師って、どこまでその技術を突き詰めていたんだろうね。

 今回のことも、僕のヴァンパイアとしての特性を活かす部分はあるけど、基幹技術はほとんど確立済みだなんてさ。その集大成がクリスチャン・ローゼンクロイツだとすると、その技術は隠し守らなきゃならないっての、本当によくわかるよ。



「で、次は?」

 と瑠奈。

 これ、わからないから聞いているんじゃない。

 急かされているんだ。

 そうだね、母さんが待ちきれなくなって戻ってくるより早く、すべてを終わらせておかないとなんだよね。


 次は、またまた人間60,000人分もの生気プネウマが練り合わされた短剣の出番。

 なんたって、これ、ゴムチューブの外にアクセスできる万能の道具だからね。

 この世界と、リリスがいる世界との垣根を切り開き、コピーの聖人の魂を2つ送り届けなきゃならない。

 その際には、父さんの髪の毛を一筋づつ、熨斗みたいに持たせる。

 これで、あとは向こうで判断してくれるだろうってのが僕の甘い予想。


 フリッツさん、表情に思いっきり疲れが滲んでいるけど、再び短剣を構えてくれた。

 あとで、僕の貯金から100万円くらいは渡さないとかなぁ。

 なんか、稼げる額も多いけど、出でいく額も大きいなあ、ヴァンパイアの家計って。


 で、僕、父さんの髪を一筋切り取って、準備完了。


 再びフリッツさんのドイツ語(だと思うんだけど、例えばラテン語であっても僕に区別はつかないんだよね)が部屋の中に響き、空間に短剣によって印が刻まれた。

「さあっ!」

 お姉さまは、フリッツさんがなにを言っているのかわかっている。

 なので、タイミングを見て僕に声を掛ける。


 僕、魂のコピーの気配だけの2人を、フリッツさんが空間に描いた印に向けて突き飛ばし、父さんの髪も一緒に送り込む。

 一瞬のくわっというような光が輝き、そのあとのこの部屋は元の単なる病室に戻っていた。

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